Issac Delgadoには名曲、名盤が多くベストの1枚を選ぶとなると悩むところですが、1997年にRMMから発表した5作目の「Otra Idea」が僕のイチオシです。
1988年にNG la Bandaに加入して、リードボーカルをとった「「Necesito Una Amiga」がビックヒットとなり、一躍有名になったイサックは1991年に独立。デビュー作のアレンジャーは音楽学校時代の友人Gonzalo Rubalcaba。2、3作目は、NG la Bandaで同僚だったGiraldo Pilotoがディレクションし、4作目はJoaquín Betancourtが担当しています。そしてこの5作目は、RMMの本拠地ニューヨークで録音し、RMMの主要プロデューサーIsidro InfanteとRamón Sánchezがキューバ側のJoaquínとともにアレンジを担当しました。
コアなキューバ音楽ファンからすると、この作品はNYサルサ的で気に入らないという評価が下りそうですが、僕の評価は逆で、影響されたのはイサック側ではなくNY側だったのだと感じています。この録音の前後からRMMレーベルでは、ティンバ風アレンジのNYサルサが全盛になっていったことから察すると、キューバ人プレイヤーの生演奏に触れたその衝撃は相当のものがあったのでしょう。
イサックはその翌年RMMから代表作ともいえる「La Primera Noche」をリリースし、名実共にキューバン・サルサの歌い手としては、最も海外で認められる存在になっていきます。
さて、この「Otra Idea」ですが「最高」という賛辞に値するナンバーが目白押しです。 1.Luz Viajeraは、DJイベント「ティンクーバ」でも欠かすことの出来ない一曲で、メロディが印象的なナンバー。次の2.24 DíasはJoaquín Betancourtのアレンジが冴える曲。3.Ni La Casa Ni YóはNY側のIsidro Infanteが担当した曲ですが、イサックは全く違和感なく自分の持ち歌にしています。4曲目はMelón Gonzálezのイントロからピアノが印象的に耳を刺激する名曲。当時のイサック・バンドのライブではメインを飾っていた曲です。そして、9.Deja Que Roberto te Toqueは、ソンの名作曲者Cándido FabréのナンバーをIsidro Infanteが素晴らしいアレンジで仕上げています。Melón Gonzálezのピアノがドライブするこの曲は、キューバン・ティンバとNYサルサの融合。
このアルバムの制作の後、イサックのオルケスタはNYのセントラル・パークやマイアミでライブを行い、一世を風靡したブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ系のアーティストとは違う迫力の生演奏を見せつけ、観衆の度肝を抜いたそうです。 イサックの素晴らしいところは、亡命という手段をとらずに、この時期にビジネスとして海外と渡り合って世界進出を果たしたという点にあるのではないでしょうか。
(福田 カズノブ ★ 2005/02/21)
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