2004年のキューバ音楽シーンにおいて、人気、実力NO.1の存在は? というと、諸説はあるでしょうが、Manolito y su Trabuco の名を挙げれば数多くの人の賛同をえられると思うのです。
日本でも、2年続けての来日もということもあって、古くからのファンは勿論、最近キューバ音楽を聴き始めた人からも支持を集めています。
マノリートはカマグエイを拠点にした老舗バンド、Maravillas de Floridaで7年ディレクトールをしてオーケストレーションを学び、ハバナに出て1994年に、バイオリン、フルートのチャランガ編成にホーンを加えた大編成オルケスタでデビュー。これが現在のマノリート・イ・ス・トラブーコの原型です。 しかし、このデビュー当初は、La Charanga Habaneraが派手なパフォーマンスで話題を振りまいていたこともあって、どちらかといえば地味な存在でした(僕は、チャランガよりもマノリートを推していたのですが・・・)。その後、名曲「Caballo Grande ande o no ande」を含む高品質なアルバム(「Contra todas los Pronosticos」)を発表。そしてこの3作目「Marcando la Distancia」で音楽的に完全に開花します。 とはいえ1998年頃はティンバ全盛。マノリートの作品はレベルが高かったわりには、時流にあわせてオーソドックスなソンのスタイルを崩すということをしていなかったので、現在に比べれば爆発的な人気には至ってなかったようです。
キューバを代表する国民的バンドといえば、Los Van Vanですが、そのロス・バン・バン・サウンドのベースとなっているリズムはキューバ音楽の本流からは少しはずれます。今は亡きElio Revéが広めたチャングイとリーダーのJuan Formellが初期に傾倒していたビートルズをはじめとするロックのキューバ的解釈がブレンドされ進化したもので、ずっと以前から続いていたものではないのです。 その点、このマノリートは、1900年前後には成立していたソンの進化の正当な延長線上にある音で、偉大なArsenio Rodriguez、Chappottinの現代版ともいえるサウンド。伝統音楽をしっかりと演奏することはたやすいことではなく、何世代にもわたって続くバンドでないとその本質を表現できなかったりするのですが、まして、さらに進化させることができるのはごく限られた才能の持ち主しかなしえないことでしょう。 1970年代から1980年代にかけてのOrquesta Rumbavanaのリーダー故Joseito González、1980年代から1990年代にかけてのAdalberto Alvarez、そしてこのManolito Simonetがその選ばれた才能なのだと思います。
さて、各曲に軽くふれていきましょう。 1.Marcand la Distanciaは軽快なモントゥーノ・ナンバー。続く、3.Llego la Musica Cubanaは重量級のリズムと「Musica Cubana」というコロが印象的な傑作。6.Tu me Recordarasは、都会的なミディアム・ナンバー。7.Y Ya Para Queは出身バンドMaravillas de Florida風なサウンドで、8.Mujeres Chiquitasは、ドラマティックなソン。また、10.Respetaではモダンな曲調でサウンドに幅を持たせようとしています。収録曲全てが聴きこむほどに味わいのでる素晴らしいものばかりで、この作品から加入したボーカルのEl IndioことSixto Llorenteの表現力が光っています。
このアルバムの後、マノリートは水を得た魚のように快作を立て続けに発表していくわけで、それぞれに人気も評価も高いアルバムですが、最近ファンになった人は、どうもこの傑作を見過ごしてしまっている人が多いようで残念です。 マノリート、いいよね。そんなふうに思っているのであれば、この「Marcando la Distancia」を、けして欠かすことなくコレクションに加えていただきたいものです。
(福田 カズノブ ★ 2005/03/07)
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