Azúcar Negra の記念すべきデビュー作。
1999 年当時、人気絶頂だった Bamboleo からHaila Mompié と Leonel Limonta が抜けて新しいバンドを結成したらしいという噂が入って間もなく、2人が中心となった Azúcar Negra はハバナで最も勢いのあるバンドとして大評判となっていきます。
CD デビュー前なのに既に人気を得ていた彼らのサウンドを、正式録音の形で初めて耳にしたのはDaisuke Hinata プロデュースのコンピ 「Havana How!」( ED70202 ) に取り上げられていた1曲。 その疾走感溢れるナンバーは、Bamboleo とははっきりと違う、新たな魅力を放っていました。
そして、遂に待望のフル・デビュー作の登場。 楽曲、アレンジ、演奏、ボーカルどれをとっても、レベルの高い傑作で、キューバン・サルサ、ティンバというスタイルが12〜3年経て到達した 「 POPSとしての完成形 」 といえる充実した内容です。
バンド・リーダーの Leonel Limonta は、Charanga Habanera に楽曲を多数提供後、1998 年に発表された Bamboleo の代表作 「 Yo No Me Parezco a Nadie 」 で、有名なタイトル・ソングをはじめ、全9曲中7曲を書き、作曲家としての高い評価を得ていきます。 Bamboleo では、演奏者としてのクレジットがないので、正式なメンバーであったかは定かではありませんが、当時セリア・クルースの再来と呼ばれるほどに脚光を浴びていた Haila Mompié を引き抜いて、念願のバンドを立ち上げることに成功します。
彼の書く楽曲は、輪郭のはっきりした美しいメロディが多く、メロディそのものにキューバン・サルサ、ティンバのグルーヴを内包しているところに最大の特徴があると感じます。 Bamboleo のリーダー Lázaro Valdés が、ジャズをベースにアレンジを聴かせるという嗜好が強いのに対し、Leonel Limonta はソンをベースにしながら、あくまでもシンプルなメロディを生かし、グルーヴを加えるためのアレンジ重視になっているといえるでしょう。
CD 発表当時のバンド・メンバーは、現地で撮った生ライブ映像からみると最高な布陣で、ボーカルは Haila Mompié を含めフレッシュな魅力の女性2人と男性3人の計5人。 アレンジを担当するベースとピアノ、ホーンがボーカルを煽りながらたたみ掛けるように繰り出して行くサウンドは強烈そのものです。
Haila Mompié は、この1作を残し、Azúcar Negra を離れソロ歌手として現在に至ります。Haila のボーカリストとしての才能は、誰もが賞賛するように、評価に値するものですが、良い楽曲とバンド・サウンドの中でこそ、彼女の歌は、より発揮される傾向にあるので、すぐにソロになってしまったのが彼女にとってベストだったかどうかは疑問です。個人的には、もう少し Azúcar Negra で作品を残すべきだったのではと思います。
それぞれの楽曲をみていくと、
1. Hoy Me Inclinoは、サックスのソロからは始まるナンバーで Haila のボーカルとトランペットの美しいメロディが交互に入り、さらにコロが絡んでいく展開。ミディアム・テンポですが、徐々に盛り上がっていくのが魅力的。
2. Andar Andando はメロディが印象的なタイトル・ナンバー。
3. Se Acabó La Rabia は、疾走感溢れるティンバ。
4. Amarte A Ti は男性ボーカルがリードをとっており、途中のトランペットのフレーズが最高。ライブではハイライトになりそうな傑作ティンバです。
8. Tan Solo Tú は、ミディアム・テンポのデュエット・ソング。エレガントなダンス向きです。
そしてラストは Bamboleo 時代の名曲 12. No Me Parezco A Nadie を Azúcar Negra バージョンで。
と、駄曲なしの全12曲。ベスト盤といえるほどの内容です。
この作品後に、かなりのメンバーが交代してしまったので、もうこのメンバーの歌と演奏で新作が聴けないのは本当に残念ですが、Leonel Limonta の作曲能力はキューバでも最高のレベルなので今後、この作品を越える傑作を期待してしまいます。
(福田 カズノブ ★ 2005/05/02)
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