2005年現在、キューバで最も勢いのあるバンドのひとつが、このPUPY Y LOS QUE SON SONだろう。 ロス・バン・バンのグルーヴを更に前に推し進めたそのサウンドは、他のバンドの追従を許さない域にまで達している。
バンド・リーダーのPUPYことCesar Pedrosoは、1965年にオルケスタ・レベにピアニストとして加入。1969年にレベのベーシストだったJuan Formellが結成したロス・バン・バンに参加し、リーダーJuan Formellの右腕として、ピアノ奏者以外にも作曲、アレンジを担当し実質的なセカンド・ディレクターとして約30年間活躍します。
ロス・バン・バン在籍中に彼は3枚のソロ作を発表。1995年には、イサックやオマーラなど10人のスター歌手がPUPYの曲を歌う「Lo Mejor De Cesar Pedroso」(QB-9021)をリリース。1996年には元ルンババーナのラウル・プラナス、ソン・カトルセのティブロンなど6人のカンタンテが参加した「De La Timba A Pogolotti」(EFA15871-2)、そして2000年には若手のメンバーをバックに「Timba:The New Generation Of Latin Music」(BMG89757-2)を発表します。 1996年と2000年の作品はジャケットにPUPY Y LOS QUE SON SONと表記してあるので、バンドが既にあったような錯覚に陥りますが、彼はその時はロス・バン・バンにまだ在籍していたので、バン・バンに身を置きながらのソロ作というのが正確な表現でしょうか。
2000年以降のロス・バン・バンは、Juan Formellの高齢化からか息子のSamuel Formellへの引継ぎが徐々に進行する中(キューバのオルケスタは世襲制が強いことが特徴です)、初の女性歌手の登用やメンバー若手化を図っていたので、看板歌手Pedrito Calvoの脱退や大番頭のPUPYが独立するのは必然の出来事だったのでしょう。
そして、遂にソロ第3作のメンバー4人と共に、バンドとしてPUPY Y LOS QUE SON SONのデビューとなったのが、この「Que Cosas Tiene La Vida」。 2002年頃はティンバ・シーンが沈滞化していたので、この作品の重量感には久々の感動を受けたものです。
PUPYのピアノ・プレイは実に強力です。ハバナのサロン・ロサードにて、リハーサル風景を見たことがありますが、他のピアニストとは全く異なる圧倒的なグルーヴと存在感に言葉を失いました。キューバのピアニストはあたかも打楽器のようなイメージを有しつつ演奏する人が多いかと思いますが、そういった意味でも彼の右に出るものは何人もいないのではないかと思うほどのビート感です。また、そのサウンド・スタイルの独自性も際立っていて、彼の創り出す音楽自体が一つのジャンルなのではと思います。ロス・バン・バンの後任ピアニストは彼のプレイを真似るしかない状況だということもうなずける話です。 彼のインタビュー記事等を見ると、自分の音楽をそのまま続けるだけだと言っていますが、移り変わりが激しいキューバ音楽界において、ファンとしては頼もしい限りです。
この作品のメンバーには、若手ではチャランガ・アバネーラに在籍経験もあるTirso Duarteが参加していますが、話題となったのは、元ロス・バン・バンで天才パーカッショニストと評価されているChanguito。 PUPYと盟友Changuitoの創り出すアンサンブルに、若手の勢いが乗った重厚でスピード感のあるナンバーが目白押しとなっています。 3.El Gato Amaga Y No Arañaは印象的なメロディが重なり合うように続く名曲。8.JuégalaはPUPYらしい旋律のイントロから始まるナンバー。一本調子と取る向きもあるでしょうが、どの曲もリズムに身体を委ねて聴くと最高です。これぞ、キューバ音楽が生んだ究極のビートの一つでしょう。
この作品の後、2004年に海外市場向けと思われる選曲で「El Buenagente」 (UNIVERSAL245-360-654-2)を発表し、続けて2005年にキューバの音楽公社エグレムから「Mi Timba Cerra」(EGREM CD-0700)を発表します。いずれも強力な作品で甲乙つけがたい出来ですが、バンド・デビュー時の勢いを評価して「Que Cosas Tiene La Vida」を本ディスク・レビューでは取り上げました。
ジャズやポップス、ましてやレゲトンなどの要素の全くない純度の高いソン・モントゥーノ「PUPYスタイル」が楽しめる最高の1枚です。
(福田 カズノブ ★ 2005/05/15)
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