ティンバというスタイルの原型のようなキューバ音楽が芽を出したのは1985年前後。 以来、進化を続け20年ほど経過しましたが、その中でも音楽的分岐点の1つと評価できるOPUS13(オプス・トレセ)の名盤を紹介します。
OPUS13のバンド活動のスタートは1970年代後半。 PAULO Y SU ELITEの前身バンドだったこと以外は、その活動はあまり知られてはいません。 CDの解説によると1980年にはヨーロッパや南米ツアーを行い、デビュー盤は「Para Una Mulata Tropical」。そして2作目は1985年「Que Llueva De Una Vez」(EGREM LD-4229)、3作目は1987年「Merengue A Kilo」(EGREM LD-4423)、1990年頃にカセットのみの作品が存在し、この1991年(*)の「Reclamo Por Tu Cuerpo」がバンドしてはラスト作品なので計5枚発表したことになります。
リーダーはJoaquín Betancourt。 バイオリニストとしてのキャリアは不明ですが、どこかチャランガ編成のバンドに在籍していたのでしょう。自身のバンドOPUS13以降は、ロヒータス、アナカオーナ、イサック、アダルベルトをはじめ、「La Rumba Soy Yo」などの企画作品まで、あらゆるサウンド・プロデュースをこなす、今やキューバのNO.1ディレクターです。
メンバーには、あのJuan Manuel Ceruto(当サイトDisc Review 30参照)、ピアノにはEmilio Morales、コロにはJacqueline Castellanosなどが在籍していました。
入手しているアルバムの曲を聴いてみると、1985年「Que Llueva De Una Vez」の段階で、既にソンとはいえないモダンなアレンジが展開されていて驚きです。 同時期に発表されたIrakere「Bailando Así」(EGREM-0153)も、José Luis Cortésが在籍していてティンバの誕生といえるアレンジの曲を演奏しています。 OPUS13はIrakereよりも、ホーン・アレンジやパーカッションにおいてソンに近いものがありますが、ベースのアレンジにはまったくソンを感じさせません。 そのことからも曲の完成度からいうとキューバン・サルサ、ティンバの基礎となる音は、Irakereよりも先にOPUS13が完成させていたように感じます。 Irakereが、ジャズとアフロ・キューバンをサルサとブレンドしたのに対し、OPUS13はあくまでもソンをモダン化する方向性をもっていたようです。 このあたりは、Adalberto Álvarezの音楽志向と一致していたようで、彼が意外にもOPUS13のプロデュースを行っていたところからもうかがえます。
歴史的に見るとこの1985年の「Que Llueva De Una Vez」は最重要作品といえるでしょう。 1987年の作品は、前作に比べてさらにソンから離れ、フュージュンに近い音になっています。そして1991年に名作「Reclamo Por Tu Cuerpo」を発表。
この作品から、Dan Den、Adalberto Álvarez y su Sonとバンドを渡ってきたパウロことPablo Fernández Galloがボーカルで参加。作曲も全面的に担当し、一気にサウンドが変化します。
パウロの甘い歌声とロマンティックなメロディ、シンコペイトの効いたピアノに流れるようなベース・ライン、そしてドラマティックなホーン・アレンジ。 重いベース・ラインとパーカッションを強調したその後のティンバ・アレンジとはまったく別の魅力を持ったサウンドが完成しています。
アルバムの曲は1,2,5,7,8の5曲がパウロ作。 ボーカリストとしても魅力はもちろんですが、作曲能力の高さも相当なものがあります。 6曲目の「Ana Elena」はJoaquín Betancourt作の名曲中の名曲。 その美しいメロディの素晴らしさは表現する言葉を失うほどです。 Joaquín Betancourtは後にイサックに提供した楽曲「La Primera Noche」なども作曲しているので、アレンジだけでなく作曲者としても評価されるべきでしょう。
この作品の後、1992年にパウロは、Juan Manuel Cerutoをディレクターに迎え、OPUS13のEmilio Moralesなどのメンバーと共に、自らがリーダーのバンドPAULO Y SU ELITEを結成します。 一方のJoaquín Betancourtは、当時妻だったJacqueline Castellanosをリード・ボーカルにしたJacqueline Castellanos y su Banda J.B.を結成。 「Solo Vivo Por Ti」(EGREM CD0054)を1993年に発表しますが、以降は自身のバンドを持つことなく、ディレクターの道を歩んでいくのです。
Paulo、Joaquín Betancourt、Juan Manuel Cerutoの3人が1つのバンド出身であること自体が意味のあることで、Irakere、NG La Banda、と並んでこのOPUS13がキューバン・サルサ、ティンバの誕生には欠かせない重要なバンドであることを強調しておきます。
個人的にもこの作品は、キューバン・サルサを聴き始めた頃の懐かしさに加えて、内容が非常に濃いということで、マイ・フェイバリットの1枚。
入手に関しては、復刻版FORBIDDEN CUBAシリーズの90s(RMD82242) を探すのが近道でしょう。
*当レビューではCD番号、レーベルは1995年リリースのCDにそって表記していますが、1991年に同内容のものがアナログ盤としてリリース済。
(福田 カズノブ ★ 2005/07/11)
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