Issac Delgado が2005年に提示した原点回帰作、極上のキューバン・サルサ・アルバムを紹介します。
Issac が NG LA BANDA から独立したのは1990年過ぎ。以来15年間に単独のオリジナル・アルバムを9作発表しています。 各作品を聴いてみると、それぞれの時期で音楽スタイルが変化していることがわかりますが、最新作をとりあげる前に、これまでのサウンドの流れを分析してみました。
まず第1期といえるのが1992年発表の「Dando La Hora」と1993年の「Con Ganas」。 プロデュースは、Issac とは学生時代からの友人 Gonzalo Rubalcaba が担当。「Con Ganas」ではNG 時代の同僚 Giraldo Piloto がバンド・メンバーとして加わり、サウンド・ディレクションも行うようになりました。 様々なライターの曲を歌いこなす Issac を、Gonzalo のジャズ、Piloto の変化に富んだリズムで支えたソロ・デビュー期の2枚といえます。
第2期は1995年の「El año que Viene」と1997年の「Otra Idea」。 イサックが米国の RMM レーベルと契約し世界進出のきっかけを作った時期です。 ディレクトールは、OPUS13 のリーダーだった Joaquín Betancourt。 ソン、サルサ、ジャズ、それぞれのエッセンスを抽出して創り上げた Joaquín サウンドにイサックのボーカルが気持ちよく乗っています。 「Otra Idea」(Disc Review 12参照)では、RMM レーベル側のアレンジャーと共同制作を行い、RMM タイプのサルサとキューバ側のリズムを強調したサウンドの融合を成功させました。
第3期は1997年の「Exclusivo Para Cuba」と1998年の「La Primera Noche」。 アレンジはベーシストの Alain Pérez が担当。 キャッチーなメロディで大ヒットとなった「La Primera Noche」は海外向けに制作、ゴリゴリなティンバを当時最高レベルのミュージシャンでキューバ国内向けに録音したのが「Exclusivo Para Cuba」。 Issac バンドは、この頃、人気、実力共に絶頂期を迎えました。
そして第4期となるのが、2001年の「La Formula」と2002年の「Versos en el Cielo」。 ディレクトールは元 Paulito F.G. y su Elite の Juan Manuel Ceruto をメインに Joaquín Betancourt を加えて、まるで OPUS13 の再来ともいえる布陣です。 そのサウンドはティンバから離れ、ヌエバ・トローバ系の楽曲をジャズよりの POPS に味付けしたものが多くなり、音楽的には幅がでて聴き所が増えた一方で、バイラブレ感はやや後退した内容になりました。
Gonzalo Rubalcaba、Giraldo Piloto、Joaquín Betancourt、Alain Pérez、Juan Manuel Cerutoとアルバムごとにミュージカル・ディレクトールを換えることで様々な音楽的アプローチを行ってきた Issac 。2005年、3年ぶりの新作は、第3期のディレクトール、Alain Pérez を復活させ、まさに原点回帰といえる方向性を出しました。 それは複雑なジャズよりのアレンジではなく、ソンからキューバン・サルサのテイストを中心にしたもの。Alain の輪郭のはっきりしたベースに、ボンゴ、コンガ、ティンバレスのシンプルなリズム・セクション、その中を縦横無尽に泳ぐ Issac の甘い歌声に、素晴らしいメロディ・ラインのコロとホーンが幾重にもなってからんでいきます。 まさに、キューバン・サルサが生み出した極上のサウンドです。
アルバム収録曲を見ていくとそれぞれが甲乙つけがたい好曲ですが、特に2. Prohibido、5. La Titimanía、7. Que Puedo Yo がお勧め。
2. Prohibido のタイトル曲は Alain の作曲。こういうスローから始まるナンバーを丁寧に歌いこなせる人はなかなかいないものです。Issac の声の魅力である、つぶやくような甘さと強いリズム感を同時に併せ持つ部分がこの楽曲では良く出ていて、ミディアム・テンポなのにダンサブルに仕上がっています。
5. La Titimanía は、Los Van Van のヒット曲のカバー。Issac は Juan Formell の曲を以前にも3曲取り上げていますが、ここでも Issac の魅力が新たに加わり、原曲とは違った肌触りとなりました。
そして、7. Que Puedo Yo は、目立ちませんが、このアルバムの隠れた重要曲。押さえ気味の中から出てくるキューバン・ビートのシンコペーションがたっぷりと味わえます。昨今の TIMBA にはなかったエレガントなキューバ音楽の形がここにあります。
NG 時代の Issac の登場がキューバン・サルサの幕開けだったので、ソロ15周年を機に、彼があらためてそのサウンドを受け継いでいこうしたならば、その姿勢を強く支持したいと思います。
(福田 カズノブ ★ 2005/07/25)
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