「Los Van Van は、35年間キューバ音楽のトップを走り続けている国民的なバンドである」とよく言われていますが、なぜそこまで高く評価されているのでしょうか。
活動歴の長いバンドは、SEPTETO NATIONAL、ORQUESTA ARAGON、ORQUESTA REVÉ、などキューバでは他に数多く存在していますし、 Los Van Van は必ずしも伝統的なキューバ音楽を継承してきた存在ではありません。逆に、キューバ音楽に欧米のサウンドを融合させた革新的なタイプといえるのです。
では、その答えは何なのでしょう。 リーダーJuan Formell が活動初期の頃にビートルズに影響され、ロックよりのポピュラー・ミュージックを目指していく中で、大衆の支持を受けるにはどうすればよいかを中心に据えた戦略を打ち出したこと、そのあたりに答えがあるように思われます。
Los Van Van は多くのバンドが陥りがちな「純粋なJAZZ」や「一般的なトラディショナル・キューバン」を演奏していない点が大きな特徴で、オリジナルなサウンドで常にヒット・ソングを目指してきたのです。 35 年間NO.1 ではなくとも、常に人気バンドのトップ10の地位を維持し続けたバンドは他にはありません。キューバの音楽ファンは実にシビアなのですから。
今回、取り上げたのは、2003年に発表された2枚組のライブ盤「Live at Miami Arena 」。( 実際のコンサートは1999 年10 月 )
キューバのバンドは、個々のミュージシャンのテクニックが極めて高い上に、数多いライブ活動や膨大なリハーサルによって、実際の生演奏から感じられる迫力には圧倒的なものがありますが、録音技術や機材のレベルの低さ、1曲の演奏時間が長すぎるなどの要因もあって、良質なライブ盤となると意外なほど少ないのが現状です。
このマイアミ・ライブは、キューバを代表するバンドが政治的に対立するマイアミで初めて大きなコンサートを行う歴史的な背景の中録音されました。
Los Van Van の演奏は壮絶なまでのクオリティで展開し、マイアミ側のキューバ系アメリカ人オーディエンスと、キューバ本国側の演奏者 Los Van Van との火花が散るような熱気と掛け合いが良質な録音で記録された奇跡的な音盤となっています。
また、このライブの後、看板歌手の Pedro Calvo とデビュー時からの盟友で Juan Formell と共に作曲を担当し、独特なピアノの旋律でVan Van のサウンド・カラーを担ってきたCesar Pupi Pedroso が脱退するというバンド存続にもかかわる展開が勃発しますので、脱退する直前、1990 年代のメンバーでの最後の作品という意味でも重要な作品といえます。
話はかわりますが、これだけ、トップ・オルケスタだと騒がれても、その魅力にいまひとつ近づけない。だが皆が「Los Van Van 最高」というものだから、自分はLos Van Van をあまり好んで聴かないのだということを、言い出せない人はいないでしょうか。
実はこの私もかつては、その一人だったのです。 しかし、1998 年にキューバ旅行した際、初めてLos Van Van 野外ライブを観る事が出来て、それまでのCDで聴いた音の印象が吹っ飛んだことがきかっけとなり、このオルケスタの持つ偉大な力に目覚めました。
そのとき体験したLos Van Van のライブは、空気そのものが音になって波動のように次から次へと押し寄せてきて、そのうち頭の中でグルーヴが回り、トリップしてしまう感覚を受けました。それからは、Los Van Van をCDで楽しんでも、音が違って聞こえるようになってしまいました。 キューバの国民が長い間支持し、育ててきたライブ・バンドの力、それが私をノックアウトした時のエピソードです。
それでは、収録曲について。
取り上げられた楽曲は大半が1990 年代の作品ですが、3曲はそれ以前のもの。 「8. Marilú 」は1969 年のデビュー・アルバムから。「4. Potpourri 70`s 」はタイトルの通りのヒット・メドレー。そして「5. Sandunguera 」は1983 年の「QUE PISTA 」収録の大ヒット曲です。 デビュー・アルバムからセレクトしているのは、原点を確認するためなのかもしれません。
1990 年代のものは、アルバムごとにみていくと、 1993 年「AZUCAR 」からは、「17. Azúcar 」。これも大ヒット・ナンバーです。
1994 年「LO ULTIMO EN VIVO 」からは、[10. Que Sorpresa 」。
1995 年「¡ AY DIOS, AMPARAME! 」から、「2. Ya Empezó La Fiesta 」,「6. Soy Todo 」,「13. La Fruta 」, 「14. Hoy Se Cumplen Seis Semanas 」, 「16. De La Habana A Matanzas 」の5曲。
1997 年「TE PONE LA CABEZA MALA 」から、大ヒットのタイトル・ソング「7. Esto Te Pone La Cabeza Mala 」と「12. Ni Bombones Ni Caramelos 」をエントリー。
1999 年「LLEGO VAN VAN 」から「3. Permiso Que Llegó Van Van 」,「9. El Negro Está Cocinando 」と人気ナンバー「11. Temba Tumba Timba 」を演奏。
こうして聴いてみると1990 年代に発表された5枚はどれも素晴らしい内容でメンバーも充実したLos Van Van の黄金期といえるのではないでしょうか。
メンバー・チェンジ後のメンバーによるライブ盤「En el Malecón de la Habana 」UN-CD8022 も発表されていますが、こちらも勢いがあってなかなか素晴らしいので、この「VAN VAN Live at Miami Arena 」と聴き比べてみるのもよいでしょう。
もちろんこの「VAN VAN Live at Miami Arena 」に付いているボーナスDVD の映像は必見です。
(福田 カズノブ ★ 2005/08/08)
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