キューバ国外から大きな脚光を浴びることのないまま、20 年以上ハバナのベスト10 あたりをキープし続けているバンド、それが、Pachito Alonso y sus Kini-Kini です。
今回のディスク・レビューは、熾烈な競争で消えていくバンドが多い中、珍しい存在といえる隠れた名バンドの歴史を追いながら、ついにブレイクの兆しの見えた 2004 年の作品 「 Cantándole a La Vida 」 を紹介したいと思います。
このバンドのスタートは、現リーダーの父親である Pacho Alonso の時代に遡ります。名ボレロ・シンガーにして作曲家でもあった Pacho Alonso は少し跳ねるようなコンパルサ風のリズム、ピロンを創り出し、1960 年代からキューバ国内では人気歌手でした。
1980 年頃には音楽学校を卒業した息子の Pachito Alonso が父親のバンド・メンバーに正式に迎えられ、父の死後、1982 年にはディレクトールに就任します。 そしてバンド名を Pachito Alonso y sus Kini-Kini に変更し、いよいよ名門バンドの新装開店となります。 Pacho Alonso 楽団時代の最後には、Issac Delgado がコロで参加していたというエピソードもありました。
1980 年代にはアナログ盤で3枚の作品を発表。 1983 年 「 Por Eso Estoy Parao 」 EGREM 1985 年 「 El Negro Africano 」 CBS 1988 年 「 Cuidad Cn La Mora 」 EGREM 。
1988 年の 「 Cuidad Cn La Mora 」 には、後に Bamboleo を結成する Lázaro Valdéz や、今や Los Van Van の顔ともいえる Roberton が、クレジットされています。
その後、1994 年から 2004 年の最新作までの間に6 作の CD を発表。 1994 年 「 Yo siempre tengo lo Que tú necesitas 」 Caribe 9427 1994 年 「 Dame Un Pedacito De Tu Amor 」 FONOVISA 1996 年 「 Una Salsa En Paris 」 Milan 73138 35801-2 1997 年 「 Ay! Qué Bueno Está 」 Caribe 9512 2000 年 「 Traigo, Fe Traigo 」 EGREM CD-0386 2003 年 「 Llámame Cuando Tú Quieras 」 BIS CD291 1994 年の CD 作品第一弾 「 Yo siempre tengo lo Que tú necesitas 」 のメンバーは、Lázaro Valdéz、 Roberton と現 Los Van Van の Le Le 、Bamboleo に参加することになる Vania、トロンボーンには Amaury Pérez、という布陣。
続いて発表された 1994 年の 「 Dame Un Pedacito De Tu Amor 」 は 1997 年リリースの 「 Ay! Qué Bueno Está 」 と同内容。( こちらが広く流通しています ) 「 Yo siempre tengo lo Que tú necesitas 」 と同様の黄金メンバーによる傑作です。
このメンバーで Pachito Alonso y sus Kini-Kini は一気にブレイクかと思われたのですが、その後、Lázaro Valdéz は、Vania を引き連れて Bamboleo を結成。 Roberton は Los Van Van に引き抜かれてしまいます。このままのメンバーでいけば、間違いなくキューバのトップ・バンドになったであろうことは、その後のメンバーの活躍をみると明らかです。
1996 年の 「 Una Salsa En Paris 」 では、Lázaro の後釜に Tirso Duarte が、そしてボーカルには Pachito Alonso の息子の Christian Alonso が加入します。 素晴らしいグルーヴのナンバーが多い名作で、ディレクトールはトロンボーン奏者の Amaury Pérez が昇格し、Tirso は作曲とアレンジも一部手がける活躍ぶり。彼は、この作品の後、Charanga Habanera に加入し、その後、Pupy のオルケスタへ、そして Afro Cuban All Stars に参加し、ソロになるというスター街道を歩んでいきます。
この作品以後、2000 年、2003 年と 2 枚の作品を発表しますが、ティンバ界の活況の陰になって話題になることは少ない時期でした。
1990 年代後半はトップ・クラスのバンドへミュージシャンを供給するための存在となってしまった Pachito Alonso y sus Kini-Kini ですが、ついに2004 年の 「 Cantándole a La Vida 」 でブレイクできる内容のアルバムを制作しました。
アルバムの内容紹介の前にサウンドの特徴を少し。
ベースになっているリズムはソンではなくチャングイに近く、そこにNYサルサのテイストを加えようとしたのが、1980 年代の後半。 同じチャングイ系では、Reve や Los Van Van 、Dan Den がありましたが、先に NG La Banda や Dan Den が実験に成功したサルサとの融合をPachito Alonso も積極的に試みていました。
ところが、そのサウンドが成功しかけた1990 年中期にメンバー脱退で頓挫。以降は時代の変化に動じず自分達のバンド・サウンドに磨きをかけて、今日まで来ています。
チャングイではありますが、トロンボーンよりトランペットを強調したサウンドは Pupy に近い感じですが、Pachito Alonso とセカンド・キーボードによる2 台の鍵盤によるドライブ感溢れる演奏が最大の特徴。ベースとキーボードの関係、さらにブラスセクションのアレンジにも独特の美しさを感じます。 NY サルサを追いかけた時期もありますが、1980 年代から続けたそのサウンドは今や最もキューバらしいバンド・グルーヴをもった存在になりました。
今回の作品は、2 人の息子 Christian Alonso と Rey Alonso がフロントと作曲を担当し、ハバナでは2. Chiquitica Bum Bum がヒット。 3. Hace Una Semana Que No Te Veo 、4. La Habana Me Queda Chiquita もバイラブレな好ナンバーで一気に勢いのあるバンドに復活です。
Pachito Alonso y sus Kini-Kini に欠けていたのは、時代にフィットしたヒット性のある楽曲と華のあるフロント陣だけだったので、これをつかんだ今、いよいよメジャー・バンドの仲間入りと思われます。
この作品が気に入った人は、ぜひ過去の名作を聴かれることをお勧めします。
(福田 カズノブ ★ 2005/09/05)
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