トラディショナル・ソンというジャンルは、キューバではすっかり観光客向けの音楽になり、そして海外からは”古き佳きブエナ・ビスタ”の世界にイメージ化されていることで、現在進行形のリアルな音楽であることが忘れさられていますが、この作品の中には驚くことに、ティンバと比較しても遜色のない新しさとグルーヴが存在しています。
Jovenes Clásicos del Son のバンド結成は 1994 年。 それまで、名門バンド Original De Manzanillo のボーカルでソンの名作曲者でもある Cándido Fabré のバンドでベースを弾いていた Ernesto Reyes Proenza “Palma”が独立し、ボーカルのEl Nené 、トレスの Cotó とともに、ギター、コンガ、ボンゴ、トランペットのいわゆるセプテートと呼ばれる編成で活動をスタートしました。
セプテート編成のバンドというのは、セプテート・ナシオナルやトリオ・マタモロスなどの曲を取り上げて、それをオリジナルに近い感じで演奏することが多いようですが、Jovenes Clásicos del Son はそういったスタイルではありません。
1997 年のファースト「 No Pueden Parar 」ではゆったりとしたソンのフォーマットに、モダンなメロディやコード進行を乗せ、時折ベースを抜いた当時のサルサ・ドゥーラ(ティンバと呼ばれる以前のハード・キューバン・サルサの呼称)のお決まりのアレンジ、ボンバを採用したりして、明らかに伝統的なソンを一歩先に進めようとしている感がありました。
トレス奏者 Cotó は Jovenes のデビュー作発表直後に脱退。自身のバンドからアルバム「 A Mi Yemayá 」を発表します。 Cotó は、トレスのジミ・ヘンドリックスという異名を持っていますが、2003 年の東京鶯谷Musica Cubana ライブでは、その名のとおり縦横無尽に演奏する姿を見ることが出来ました。 彼は、Jovenes のアルバムにはその後ゲストの形で参加していますが、鬼才 Cotó もソンの未来を担う要注意人物といえます。
1999 年に発表されたセカンド作「 Fruta Bomba 」。この作品から Jovenes Clásicos del Son の快進撃は始まります。
アコースティックな楽器で音数が少ない編成なのに、分厚い音になっているのは何故なのでしょう。まるで、ホーベネス・マジックにかかったかのような楽曲が満載です。 リード・ボーカルの El Nené は、この作品でトラディショナル・ソンの歌い手としては若手 NO.1 の評価を受け、2000 年「 Cuidad Con El Perro 」、2001 年「 Me Voy Contigo 」の2枚のソロを発表するに至っていますが、出来としては、Jovenes のもの には及んでいません。 Jovenesにとっても、El Nené は必要なバンドの顔であり、El Nené にとっても、バックはJovenes が最高なのだと思います。彼も今後バンドを脱退などせずに、このまま才能を伸ばしていってほしいものです。なにせ味のあるボレロを表現することができ、ソネーロとしての力量が問われるコール&レスポンスも素晴らしい、黒人ボーカルリストの魅力が詰まった素晴らしいカンタンテなのですから(El Nené からはルンバに通じる黒人のアフロ・グルーヴが強く伝わる一方、白人系であるバンドリーダーの Palma のディレクションからは、ヨーロッパの香りがします。そういった意味では、ソンが遥か昔、スペインの音楽とアフリカの音楽が1対1で融合し成立していったのと同様なものをこのバンドから感じることも)。
そして 2003 年に発表された、第3作「 Tambor En El Alma 」。 前作があまりに素晴らしい作品だったので、それを超えるのは難しいと思っていたのですが、トラディショナル・ソンの進化系サウンドが、この1枚に全てあるかのような傑作をもたらしてくれました。
前作までの Cándido Fabré の楽曲を中心に据える流れからも離れ、そのオリジナリティは、もはやキューバを代表するバンドの1つといえる存在感。
各曲を見てみると、 1. Tambor En El AlmaはEl Nené の歌い上げるオープニングから、印象的なコロへ続き、掛け合いとなっていく素晴らしいナンバー。トランペットも透き通った音色です。
2. Colgado En La Pared はベースとトレスそしてギター、El Nené とコロ、トランペットの音が絶妙に混ざり合う哀愁溢れる一品。ギロもいい感じです。
3. Romance De Amorは、美しいコロの上に El Nené の濃いボーカルが乗るナンバー。素晴らしいサルサやソンはリード・ボーカルよりもコロにはっとするフレーズがあるものですが、Jovenes はまさにその典型。本当にため息の出る美しさ。
続いて4. Ahora Tú Veras Como Se Balla El Son はモントゥーノ。
6. La Perorata は、トレスが聴き所。 8. Guajira En Descarga は、ニコ・サキート調のグアヒーラ・ソン。重厚です。 そして9. Canción Al Mejor は、Chucho Valdé s のピアノをバックにベニー・モレを意識した素晴らしいボレロ。El Nené の名唱が味わえます。 10. Bembelegua は軽快なソン。
ゲストとして、Changuito 、Tata Guinesu 等が参加していますが、皆、演奏に加わりたくて集まったような気がします。そう感じさせるくらい魅力的な楽曲の作品なのです。
しっかりとしたソンのフォーマットに、モダンなコロやアレンジを加え、新しさと伝統的な部分の両方を同時に併せ持ったバンド、それが Jovenes Clásicos del Son 。 これはティンバしか聴かないダンス派の人も、ソンしか聴かない古典派の人も、全てのキューバ音楽ファン必聴の名盤でしょう。
(福田 カズノブ ★ 2005/09/19)
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