Fidel Morales (フィデル・モラレス) & Proyecto NEGA 名義で発表された 「 Salsa Son Timba 」 は、1979 年の 「 Estrellas de Areito 」 ( WPCR-19006-7 )、1986 年の 「 Festival Del Son 1986 」 ( CRACD-211 )、1997 年の 「 Afro Cuban All Stars 」 ( WCD-047 ) の3作品に継ぐ、2000 年代オールスター・アルバムの名盤候補の1つといえる作品です。
参加メンバーは、ボーカルに Pedrito Calvo と Angel Bonne、マノリート・オルケスタの El Indio、バンボレオの Tania、クリマックスの Juan Carlos Hechavarría 、元チャランガ・アバネーラの Tirso、そして Teté García Caturla 。 ベースは元クリマックスの名手 Roverto Riveró n、ピアノはイサック・バンドの Tony Rodriguez、シンセはクリマックスの Yusel Dí az、ホーン・セクションは Germán Velazco、Amaury Pérez、Alexander Abreu の名手3人、ティンバルのゲストに Amadito Valdés、そしてなんとトレスとして Manolito Simonet、という布陣。 豪華さに目がくらみそうですが、この作品の評価すべきところはフィデル・モラレスの作曲とアレンジの素晴らしさなのです。
皆さんはこれだけの豪華メンバーを集めてリーダー・アルバムを制作することのできるフィデル・モラレスとは何ものなのかと疑問を感じることでしょう。 それでは、シーンに復活した幻のミュージシャン、フィデル・モラレスを紹介します。
彼の名前を初めて目にしたのは NG La Banda、1990 年のセカンド・アルバムの1曲目「 La Expresiva 」の作曲者として。 日本ではセカンドの CD 化が最初だったので、この曲が NG La Banda の印象を決定付けたようなものです。 その後、自身のバンド El Grupo Layé からデビュー CD「 Tremenda Expresividad 」を発表。初期の NG La Banda、オプス・トレセ、初期のパウロに通じるサウンドで、ソンからキューバン・サルサ移行期の重要な作品といえる内容でした。
その後、なぜか音沙汰がなくなるのですが、海外ツアー時に国外在住となり、パナマを拠点にしてしまったようです。 当時はキューバン・サルサの黎明期、その後にイサック・デルガード、チャランガ・アバネーラ、クリマックス、メディコ・デ・ラ・サルサなど新バンドが大活躍していく時期だったので、フィデル・モラレスがキューバ国内にいたならば、強力なバンド・リーダーの一人として影響を与えたことと思います。
そして12 年後、突如として彼のリーダー・アルバムが登場。名前を見て驚きましたが、その内容の充実ぶりにはさらに驚きでした。
各楽曲を見ていくと、
1曲目は、フィデル・モラレスとヘルマン・ベラスコの共作。この CD のテーマ・ソングです。ヘルマン・ベラスコはイラケレからホセ・ルイス・コルテスと共に NG La Banda を結成したディレクトールですが、フィデル・モラレスとはその頃からの付き合いでこの作品に協力したのでしょう。
2曲目は、グルーポ・ライソンのリーダー Luis Rios のペンによる名曲。アンヘル・ボンネが歌っています。
3曲目は、フィデル・モラレス作。ボーカルは、元チャランガ・アバネーラ、そしてプーピ・バンド、アフロ・キューバンを経て、ソロになったティルソ。ミディアム・テンポのながらティンバの要素を含んだナンバーでフィデル・モラレスのメロディ・メーカーとしての才能が全開したナンバーです。
4曲目は、モダンなアレンジをバックにペドロ・カルボが歌う Chan Chan。
5曲目は、スタンダード・ナンバーといえる Pare cochero をエル・インディオが歌っています。このあたり2,4,5曲目はソンを現代的なアレンジにしたものといえます。
6曲目は、アスーカル・ネグラからバンボレオに移籍したタニアが歌う、フィデル・モラレスの作品。伸びやかなボーカル、流れるような美しいメロディ、そしてキレのある演奏とダイナミックなアレンジ、タニアの代表曲になりそうな名演です。
7曲目は、クリマックスのボーカリストが歌うフィデル・モラレスの作品。ヌエバ・トローバ調のメロディから後半一転して劇的な展開になるところが聴き所。
8曲目は、オマーラと並ぶ存在のテレーサ・ガルシーアが素晴らしいボーカルを見せるフィデル・モラレスの作品。アマディート・バルデスのクールなティンバレスが印象的で、徐々に盛り上がり爆発するビック・バンド・スタイルのサウンドを味わえる作品です。
9曲目は、ボーカリスト全員が歌う1曲目と同様のナンバー。テーマ曲としてこの作品のトータル性を出しています。
この「 Salsa Son Timba 」は、ソンとサルサ、ティンバを同じトーンのアレンジで違和感なく1枚のアルバムに収めたという点で、評価すべきオールスター・アルバムといえます。 ソンとサルサ、ティンバはそれぞれ個別のものではなく、ソースは多少異なっても1つに繋がったキューバ音楽なのだということを賛歌しているのだと思います。
2005 年に入ってイサック・デルガードをはじめとしてキューバン・サルサの復調はいよいよ本物になってきました。 新作でこれほどの名作が出ることはめったにないことなので、ぜひ聴かれることをお勧めします。
この作品をきっかけにして、フィデル・モラレスの次回作がリリースされることを期待してやみません。
(福田 カズノブ ★ 2005/10/03)
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