Sol Y Soul というバンド名で発表された 2000 年の「 Sol & Soul 」を紹介します。
この作品の聴き所は、3 曲目の 「 Para Calmar tu Alma 」 。キューバ音楽では珍しい程、印象的なイントロを持っていて、初めて聴いたときからマイ・フェイバリットになっている曲です。
キューバ音楽におけるイントロは欧米のポピュラー・ミュージックに比べミュージシャンから軽視されている傾向がありますが、それは適当に作っているからではなく、もともとキューバ音楽そのものに 「導入」 という概念が弱いためと考えられます。
キューバ音楽の成立は 1800 年代後半、スペインの音楽と西アフリカのヨルバ族あたりの音楽がドッキングし混ざり合いながら成立していったといわれていますが、ソンにおいては、後半のモントゥーノ部分がアフリカの影響が色濃く出ている箇所で、パーカッションはアフリカそのものを感じさせるパートとなっています。
想像するに、キューバ音楽の先祖であるアフリカの祭りでは、太鼓の音で始まり、段々とその数が増え、歌や踊りが加わって盛り上がっていき、夜がふけるにつれて太鼓の数が減って、最後に鳴り止んで終わっていくものだったのでしょう。 つまり始まりと終わりという概念が弱く、むしろ終わりと始まりは繋がってるという感覚を持っているともいえるのです。 これはキューバのコンパルサやブラジルのサンバに顕著に出ていて、終わりが来ない音楽が自分の前を通過しているだけだという感覚とも表現できます。 だから、オープニングは特に必要なかったのかもしれません。
その真偽はともかくとして、謂わばイントロ軽視ともいえるキューバ音楽の傾向の中で、Sol Y Soul の 「 Para Calmar tu Alma 」 はロマンティックなメロディを幻想的ともいえるシンセの音色で表現したイントロで始まる、サバービア系が飛びつきそうなセンスを持った曲で、不思議な魅力を放っています。
イントロ重視は欧米のポピュラー・ミュージックでは常識ですが、キューバ音楽の中では Bamboleo の 「 Yo no me Paeezco a Nadie 」、 Manolito y su Trabuco の 「 Saliditas Contigo 」 と並んでベスト・イントロ曲に挙げたい曲です。
さてこのバンドのプロフィールですが、そもそもカナダのミュージシャン (ドラマー) がキューバ音楽のレクチャーを受けにハバナに来て、すっかりティンバに魅了され、自分のプロデュサーと共に再びキューバに渡って、当時のトップ・ミュージシャンと企画アルバムの制作を行ったということが実態のようです。 どうりで、ライブを行っている形跡もないし、CD にはレーベル番号すら表記されていません。
メンバーには、 パウリート・FG から、キーボードとリード・ボーカル担当の Yosuel Bernal Pina 。 カルロス・マヌエル・イ・ス・クランから、ピアノとリード・ボーカル担当の Pedro Camacho 。 この2人を作曲及びアレンジャーにすえて、ゲストにチャランガ・フォレベルのボーカル、Sandier Ante 、ホーンセクションには Juan M Ceruto 、Alexander Abreu 、Amaury Perez を揃えての陣容。
バンド名も Sol Y Soul という名称なので、Soul に近づけた Timba がこのバンドのサウンド志向なのでしょう。
楽曲を見ていくと、 2 曲目は、バンボレオの名曲 「 Yo no me Parezco a Nadie 」。 5 曲目はイサック・デルガードの 「 Mueve la Cintura 」。 9 曲目は有名曲 「 Chan Chan 」。 11 曲目はホーベネス・クラシコス・デル・ソンの 「 Que me Comparen 」。 それぞれのカバーは Sol Y Soul 流ティンバに料理されています。
他にも、1. Ahora es muy Tarde 、4. Esta Cancion 、6. Si tu no me Quieres 、8. Otra Onda 、などが聴き所。 ティンバ全盛期の勢いを感じさせるナンバーが多く、全体としても秀作といえる出来です。
この企画ユニット Sol Y Soul は、この作品の評判が良かったのか、セカンド作の録音を行いすでに完了したという情報もありますが、ファンとしてはこの作品の延長線上の展開を強く望んでしまいます。
*レーベル名は自主制作盤なのでプロデューサー名を記載しました。 お求めの場合は、「 Sol Y Soul 」というバンド名で検索、お問い合わせください。
(福田 カズノブ ★ 2005/10/31)
|