パウリートの"illusion de papel"で期待感たっぷりに始まるこの作品。 この曲がまずは濃密な出来。 パウリートのオリジナル・バージョンとは、異なる魅力で ものすごい畳み掛け方です。 ビルヒニア姉さんの、安定感あるボーカルは表情豊か。 特に「切なさセンサー」にはガンガン訴えてきます。
キューバ音楽ならではの、あたたかみが全編に行き届いていますが どの曲も見てみれば、マノリート・シモネー、ヘルマン・ベラスコといった キューバ音楽の一流アレンジャーが関わっているので そのクオリティは想像がつくでしょう。 ♯11も♯1と同様、 ときおり見せるこみあげ感と耳をひきつけるアレンジで、かつ カシーノで踊ってもしっくりくる。 古臭からず頑張りすぎずで、見事な仕上がりです。
そして、あくまで個人的に、ではありますが 最大の聴き所となっているのがフランシスコ・セスペデスの "Cuando"です。 セスペデスという人は、セサール・ポルティージョ・デ・ラ・ルスが そうであるように、アレンジ次第でいかようにも広がっていく 可能性を秘めた曲を多くつくるのですね。それは優秀な 作曲家の証だということなのですが、この曲もヘルマン・ベラスコが 涙の出るほど、切ないものにしてくれました。
他にもお馴染みの曲から、しっとり系まで、比較的バラエティに 富んだ作りになってはいるのですが、上に挙げた曲だけで考えても よくぞたった一枚のアルバムにこれほど上質の曲が収まったものだと 感心します。ほんのすこしだけ素朴なところもいい。
彼女は何年も前にLos Surik の歌手として来日もしていますが 当時は、これほどの力のある人だとはまったく、考えが及びませんでした。
これがキューバの、成熟した女性の歌なのです。 じっくりと耳を傾けてください。
(DJ KAZURU ★ 2005/11/07)
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