キューバ音楽界が生んだ名作曲家、César Portillo De La Luz、セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルスの作品を紹介します。
私が彼の名前を初めて目にしたのは、オルケスタ・アラゴンをバックに歌うエレーナ・ブルケの 「 Son Al Son 」 の作曲者クレジット。 この素晴らしいナンバーを書いた人は誰だろうと思ったのが最初でした。 そして、キューバ音楽の名曲集に必ずエントリーされる 「 Noche Cubana 」も彼の作なのだということに気が付いたのです。 セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルスは、1922 年生まれで、現在 83 歳。 1940 年代からギターの弾き語り、トローバ・スタイルで音楽活動をスタート。 1950 年代には、カンシオンというキューバ音楽に、ジャズのモダンなコード・ワークをブレンドした楽曲を、ホセ・アントニオ・メンデス、ニコ・ロハスらと創り出し、フィーリンという名で脚光を浴びます。
このフィーリンは、ちょうどブラジル音楽のサンバにジャズがブレンドされて誕生したボサノバに経緯が良く似たところがありますが、 キューバでは、オマーラ・ポルトゥオンドやエレーナ・ブルケが、フィーリンのナンバーを数多く歌って、1950 年代から 1960 年代に一世を風靡しました。
セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルスは、もちろんフィーリンの創始者として認知されていますが、 それ以上に評価すべきことは、キューバ国内はもとより、古くはナット・キング・コールから、ルイス・ミゲル、ブラジルのカエタノ・ベローゾまで、数多くの国外アーティストにも楽曲を取り上げられていることなのです。 言うまでもなく、キューバ国内においては各年代で様々なタイプのバンドが名演を残しています。
ギター1本の弾き語りからオルケスタまで、様々な編成やアレンジにも耐え、それぞれの中で光を放つ楽曲はそうそうありません。 そして、驚くべきは彼の60年のキャリアで作曲した曲が30曲にも満たないということ。彼の生み出した20数曲は、多くの音楽家に指示され、多くの人に愛されてきました。
今回取り上げた作品は、1991 年に行われたハバナのホテルでのライブ録音盤。 それまで、彼自らの演奏と歌を聴いたことがなかったので、本当に嬉しいリリースでした。
ギターの爪弾きと語りから1曲目の 「 Tu Mi Delirio 」 が始まります。 まるでハバナの旧市街、夕暮れのマレコンが映像として浮かんでくるような感じです。 この曲はカバーが多く、アダルベルト・アルバレスが 1991 年に取り上げています。 2曲目は日本でも古くからスタンダード化している 「 Noche Cubana 」。 3曲目は、セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルスの歌唱が生きているナンバー。 5、6曲目は、サンバ映画の主題歌「 黒いオルフェ 」を彷彿させる曲。美しいメロディです。 8曲目はオマーラ・ポルトゥオンドも歌っています。 11曲目は、マレーナ・ブルケとNG・ラ・バンダも 1989 年に取り上げています。 14曲目は歴史的名曲 「 Son Al Son 」。 15曲目はキューバン・サルサのアレンジで何度も取り上げられている曲。 16曲目は、イサック・デルガードも自身のアルバムで歌い上げた「 Cancion Para Ese Dia 」。
珠玉と言うに相応しい全16曲です。
この作品の後、2000 年に 「 La Música De César Perez Portillo De La Luz 」 ( 850820-2 ) と 「 El Feeling De César Portillo De La Luz 」( EGREM CD-0426 ) の2枚がリリースされていますが、 こちらは本人のオリジナルとカバーを合わせた内容。 特に「 La Música 」の方は名演が多くお勧めです。 重複する曲もありますが、演奏者が異なるものも多いので、彼の作品集は3枚あることになります。
「 La Música De César Perez Portillo De La Luz 」 には、今回取り上げたライブ盤にない楽曲が6曲ありますので、これで彼の作品で確認できるものは 22 曲。
これからも、彼の曲の様々なカバー・バージョンを探しつつ、未知の楽曲がないかを調べてみたい気がします。
今も、ハバナで弾き語りを行う現役、セサル・ポルティージョ・デ・ラ・ルス。 キューバ音楽ファンならば知っていなくてはならない名作曲者です。
(福田 カズノブ ★ 2005/12/12)
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