Martin Richard”el zorro”Lehner 。 スイス人ながらキューバ音楽に深い思い入れをもつミュージシャンです。
2000年前後を期として世界中のミュージシャンからの注目を集める キューバ音楽でありますから、キューバに赴き、そこで感じたものを 何かしらの起爆剤にしたいと願った音楽家は、スイス人に限らず 多数いたことと思われますし、現在も同様の状況が続いていると 察することが出来ます。 そういった意味で el zorroはけして特殊な出発点をした人ではありません。
キューバ音楽を愛する日本の作家で 「自分は、若いころにドラムをたしなんでいたのだが あのままドラマーなぞになっていなくて良かった。 何かの間違いでドラマーになっていて、その上で キューバのドラマーに接してしまったら 自殺したくなったことだろうと思うからだ」 そんなふうに、キューバの音楽家のレベルの高さを 表現した人がいましたが、冗談などではなく キューバの音楽(家)に接してしまったことで 自分が音楽を、ましてやラテン音楽を志す必要などないと 絶望する外国人もいるでしょう。
もちろん、更に奮起して自国に戻り「キューバのエッセンス」を ひたすらに追求する人もいるのでしょうが、そこには 「キューバ人に敵いもしなければ、自分のアイデンティティもない」 という、恐ろしい落とし穴が待ち構えていることも 想像にかたくありません。
el zorroには、彼の描く「理想の音楽」が明確に あったのではないでしょうか。 そういった理想があればこそ どんなに好きな「キューバ音楽」であっても ここをこうしたらもっと美しくなるのに、だとか 思いながら聴いてしまうものです。 キューバ人により演奏されている数多の音楽。 いくら「刺激的なティンバ風」でも アレンジが垢抜けなかったりということを感じれば 具体的な、新しいアイディアが 彼の頭の中には浮かんだのでしょう。 それを、 アクの強いキューバ人ミュージシャンの中に 飛び込んでいって、臆することなくそれを突きつけた。 そして、ゼロから音楽を作り上げてしまった。 そんなところじゃないかと思うのです。 だからこのアルバムの音は、「キューバ人のあやつり人形になった 外国のミュージシャン」の音ではありません。 確かに キューバ音楽の歴史なくては、生まれ得なかったサウンドですが その彼らのサウンドを、更に 一歩も二歩も進めていこうとする気概を感じます。 キューバとスイスのミュージシャンで作り上げた 美しいコラボレーション作品と言えるでしょう。 通して聴いてみると、クオリティの高い楽曲が あまりにも次々に出て来るので、驚かされます。
余談ですが、このレビュー執筆時には セカンド・アルバムがリリース済みです。 現地でトップとされる人気シンガーなどをゲストに招いていますが こちらでも更なる勢いで rock,soca,hip-hopと織り交ぜ 「外国人」である自分のセンスを発揮。 彼の仕事は、安定の域にすら達しているようです。
(DJ KAZURU ★ 2005/12/19)
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