キューバ音楽を初めてライブで聴いた時、欧米のロックやポップスとは異なるリズム感が全ての楽器、ボーカルに貫かれていて、一見混沌としているようで恐ろしいほどの整合性が内側に存在していることに驚いたものです。 キューバン・サルサはさらに、ロックやポップスからすると同じカテゴリーに入るニューヨーク、プエルトリコ、コロンビア等ともベースとなるリズムには違いがあります。 特にティンバでは顕著。 それは、ティンバがソン・クラーベではなく、ルンバ・クラーベを基本にしていることにも一因していますが、Charanga Forever ( 以下 Forever ) は、そのねじれているとも言えるリズムが全面的に露出したバンドの代表ともいえる存在です。
キューバ音楽ファンには周知のことでしょうが、1990 年代後半、キューバ国内での圧倒的な人気のみならず世界からも新世代のキューバ・バンドとして注目をあびていた、ダビ・カルサード率いるチャランガ・アバネーラから分裂するように独立したのがこの Forever。 1999 年、本体のオルケスタは、ダビとリード・ボーカルのミチェルのみとなり、もう一方の核となる人物ダニー・ロサーダは自らのバンドを結成、あとのオリジナル・チャランガ・アバネーラのメンバーは、殆どが Forever に参加しました。
ダビが常に世界での成功を念頭において、広義のポップスを手がけることも視野にいれていたのに対し、この Forever はキューバ国内向けのあくまでもバイラブレな演奏重視の方向。 アルバムは現在まで3枚発表(「 La Charanga Soy Yo 」2000 年、「 Charanga Forever 」2001 年、「 La Cuqui Quiere Fiesta 」 2004 年)していますが、特に2作目となるこの作品はミチェル・マサも参加し、チャランガ・アバネーラの全盛期にも勝るとも劣らない勢いが感じられる内容になっています。
1曲目「 Dice Formell 」は、Los Van Van のリーダー、ファン・フォルメル作。 ボーカル陣とホーン・セクションの掛け合いとキレのあるリズムが素晴らしく、Van Van 色をことさらに強調していないという点からも、ファン・フォルメルの作曲能力の豊かさがわかるナンバーです。
2曲目「 El Avió n 」は、アスーカル・ネグラのリーダー、リモンタ作のミディアム・テンポのティンバ。
3曲目「 La Menor 」は、メロディアスなイントロから始まり、途中でリズムがねじれていくように感じる作品。 ミチェル・マサのボーカルと演奏が巻き起こす怒涛のモントゥーノが最高です。
4曲目は「 Suave Pa’que 」は、2005 年に自身のバンドのデビュー作を発表したベーシスト、ペドロ・パブロの作。 ボーカル陣が楽器のようなパーカッシヴな掛け合いを展開します。 この曲などは、他のサルサにはない、まさにティンバだけのグルーヴでしょう。
5曲目「 No Llores Mas 」は、このアルバムの全体のアレンジを担当したピアノのファン・カルロス・ゴンザレスの作品。 Forever は、ダビ・カルザードからの独立が結成動機だったことからか、バンド・リーダーやメイン・アレンジャーが不特定で、アルバムごとに替わっていますが、サウンドは一定してモントゥーノ重視になっています。
7曲目は「 Popurri 」は、チャランガ・アバネーラ時代のヒット・メドレー。
本体チャランガ・アバネーラが常に進化していくことを目指しているのに対し、Forever は、1つのスタイルともいえる初期チャランガ・アバネーラ流ティンバを演奏し続けていくことが使命であり、自分達の存在意義と感じているのでしょう。
キューバ音楽の素晴らしい点の一つに、トラディショナル・ソンやチャランガ、コンフント・ソンなど、以前一世を風靡したスタイルのバンドがそのまま現存して演奏を続けていることがあげられますが、このチャランガ流ティンバもそのままクラシックといわれるまで続けていって欲しいものです。
Forever の2作目「 Charanga Forever 」は、ティンバ全盛期に制作された素晴らしい内容の作品ですので、ティンバ・ファンならばマストの1枚といえるでしょう。
尚、このアルバム後半は、MÓ NICA Y SU MECÁ NICA のナンバーが2曲入っています。
(福田 カズノブ ★ 2006/02/13)
|