チャランガ・アバネーラの話題作 「 El Ciclon de la Habana 」 を紹介します。
前作 「 Light 」 はポップス・バラーダ・アルバムだったことで、キューバ国内はもとより海外でも、チャランガはティンバを捨てたのかと話題になりましたが、今回の作品は、元の路線ティンバ・スタイルに戻った内容となりました。
マノリンもパウロもそうですが、一度はサルサを離れてアルバムを出したいというのがキューバのアーティストの心情なのでしょう。
2003 年の 「 Soy Cubano Soy Popular 」 以来となるティンバ・アルバムの出来は、さすがと言える歌と演奏が詰まった好作品。 ダビ・カルサードは、人気メンバー、ユリエンやエブリスが脱退しても若手の有力ミュージシャンを供給し、何も変わらないチャランガ・アバネーラを維持し続けています。
アルバム全12曲中、ティンバは8曲。 レゲトン系ポップが2曲、バラーダは1曲、そしてソンが1曲というラインナップ。
タイトル・ソングのオープニングは軽快なティンバ。 2005 年には“サイクロン”が数多くキューバを襲いましたが、時事ネタとチャランガの存在をかけたダビらしいアイデアです。
4曲目はポップ調のナンバー。レオニ・トレスの作品です。
5曲目はアライン・ダニエル作。 彼はバンボレオのカンタンテとして活躍し、近年になって自信のバンドを立ち上げて独立。現在、ハバナで人気急上昇の存在です。メロディアスな曲調で徐々に盛り上がる展開はなかなか。
6曲目はクバニート20.02 とダビの共作。 クバニートはクバトンの代表、チャランガ・アバネーラはティンバの雄として対立するスタイルのライバルともいえる両者ですが、それぞれジャンルの棲み分けをして共闘していこうということのようです。これもダビのビジネス手腕でしょうか。
8曲目は今やチャランガの演奏を仕切るオスマニーの作です。 現在、最もチャランガ・アバネーラらしい曲を書けるのは彼でしょう。日本にユムリ・イ・スス・エルマノスの一員として滞在していたことを考えると彼の活躍は親近感を持って応援したくなります。
9曲目はマノリート・トラブーコのリード・ボーカルでライターでもあるリカルド・アマライ作。 マノリート・シモネーが離さなければ、リカルドはチャランガに加入していたかもと思わせるほど、ダビは彼の楽曲を採用し続けています。モダンなメロディ・ラインが印象的なナンバーです。
11曲目はバラーダ。前作の延長線上です。
12曲目はチャランガの原点を確認するためか、トラディショナル・ソンを取り上げています。実はライブでも必ず1曲、ソンを演奏するのが定番なのです。
「 Soy Cubano Soy Popular 」 からこの 「 El Ciclon de la Habana 」 までの3年間にチャランガ・アバネーラの後を追えとばかりに、エル・クラン、ロス・アンヘルス、ボニ・ケリーと同傾向のバンドがデビューし活躍していますが、 アイドル・バンドという人気はあっても、音楽的にはチャランガ・アバネーラに迫る後継者は見えてきません。
ティンバのアレンジに新しいものが生まれてこない昨今、ダビ・カルザードはその人気を牽引していく使命を一手に引き受けているようです。
今回の作品は肩の力が抜け、演奏、歌共に充実した内容で王者の風格すら感じさせます。 破壊的とも言える勢いやメインとなる派手目な楽曲がないことから、地味な印象を受けますが、 ここ5年のチャランガ・アバネーラの活動では最も安心して聴ける充実作なのではないかと思います。
(福田 カズノブ ★ 2006/03/20)
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