1958 年のキューバ革命以前に 世界を席巻していた、キューバ音楽。 しかし政治的問題がおこり、世界への発信が 閉ざされた状況が続く中で、1970 年代に キューバのリズム 「 ソン 」 を土台にした 「 サルサ 」 の時代になってしまいました。
キューバ本国では、過去に何度か このソンという音楽文化を伝承していこうという 大きな試みを持った録音がありました。 その作品は、時代に後押しされて生まれたものですが、 時が経ってみるといかに重要な作品であったのか再認識させられます。
それは、1979 年の 「 Estrellas de Areito 」 ( WPCR-19006-7 )、 1986 年の 「 Festival Del Son 1986 」 ( CRACD-211 )、 1997 年の 「 AfroCuban All Stars 」 ( WCD-047 ) の3作品。
偶然にもほぼ10年ごとに発表されたオールスター・アルバムは、 その時代の節目となって キューバ音楽の歴史を語る上で避けては通れない存在といえるでしょう。
本作は 1997 年リリースされた アフロ・キューバン・オール・スターズの それこそ歴史的な作品ですが、同時期に発表され 世界的大ブームを巻き起こすに至った ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ ( こちらについては、関連書籍も 多く出ているのでそちらを参考にしていただきたく ) と、とても 関わりの深いものでもあるのです。
中心となっているのはトレス奏者のフアン・デ・マルコス ( 1954 生。父は 名門アルセニオ楽団の歌手 )。 彼は、学生時代に友人達と共に キューバの伝統音楽を継承するべく、バンド 「 シエラ・マエストラ 」 を結成。 1980 年代には、アダルベルト・アルバレス楽団と並び ソンの再生を果たした、と脚光を浴びます。 そして シエラ・マエストラ脱退後は、キューバの優秀な若手音楽家と 年老いていく 「 名手 」 のミュージシャンを一同に集め アルセニオやベニ・モレに代表されるようなビッグ・バンド形式で 黄金のキューバ音楽を奏でるバンドを作ろうと、決意を新たにするのです。
一方、ワールド・ミュージックとの コラボレーションを次々に果たしていたライ・クーダーと ワールド・サーキット・レーベルのニック・ゴールド。 彼らはアフリカのバンドをキューバへ連れて行き キューバ人と共に演奏を録音させるという企画を そのころ進行中でした。 ところがアフリカのミュージシャンがキューバに到着しなかったことが 転機となり、ニック・ゴールドはフアン・デ・マルコスの A.C.A.S. の 企画に合流することを考えたのです。
A.C.A.S. から若手をとりのぞき 「 失われたキューバ音楽 」 をライ・クーダーが発見し 世界へ蘇らせるコンセプトの映画をヴィム・ヴェンダースが製作。 この流れで、まさにコロンブスが新大陸を発見したかのような 話になり、フアン・デ・マルコスの想いを大きく超えた B.V.S.C. の大ブームとなったのです。 結果、映画としてキャラ立ちのいい、コンパイ・セグンドらが キューバ音楽家の代表のようになったものの 元々はメンバーにすら入っていなかったのが実情で 音楽形態も、小編成のトラディショナル・ソンが 映画と共に有名になりましたが、もっと大きな編成の ものをマルコスは予定していたし、こういった 小編成のものをやる気は殆どなかったはずです。
1997 年当時、本国キューバでは、TIMBA が誕生し 若手中心に音楽の隆盛をみていたわけですが 世界の目は B.V.S.C. へ集中。 勿論革命以降キューバ音楽を、これほど世界に知らしめたことは なかったわけですから、往年の名手達がコンサートの機会を得た そのことだけでも 大いに評価に値します。
しかし、それではフアン・デ・マルコスの 思い描く 「 若手とベテランの融合による、キューバ音楽 黄金時代の復活 」 への志は満たされなかったのではないでしょうか。 少なくとも、トラディショナル・ソンを世界に知らしめることが 彼の目的ではなかったと思います。 フアン・パブロ・トーレスが、かつて オルケスタ・アレイートをもって示したような豊かな音楽性に 満ち溢れたことを試みとしてやってのける、それこそが 彼の使命であったでしょう。
音楽がもっとも充実していた時代の復興 という意味で言うのであれば、A.C.A.S. は、より 大きな賛辞を持って称えられるべきです。 更に言うならば、録音では聴くことの出来る 美しきビッグ・バンド・サウンドを復元し LIVE演奏を行ってみせた、とうことは 最大に評価されるべきでしょう。 1. のグアヒーラ・ソンなど 1950 年代のビック・バンド・サウンドが 見事に再現されていますし、2. はアルセニオ・ロドリゲス楽団の代表曲で、 名作曲家リリー・マルチネスの手によるものですが。 骨太なソン・モントゥーノはティンバを凌ぐものがあります。
私は、A.C.A.S. のコンサート会場で涙しました。 キレの良いリズム、厚みのあるホーン、若手とその先生ともいえる名手が分厚いサウンドをつくり、そこに類稀なるシンガー フェリックス・バロイが歌い上げるのを目前にして、フアン・デ・マルコスの 築き上げたものの壮大さに、打ち震えました。 LIVE こそがキューバ音楽の魅力である、というのならば このユニットほど、それを訴えているものもないと感じるのです。
(福田 カズノブ ★ 2006/04/25)
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