アダルベルト・アルバレスの原点といえるのは、ソン・カトルセ時代の3作。 そのベスト編集盤といえる Los Super Exitos De Adalberto Alvarez & Son14 ( アダルベルト・アルバレス&ソン・カトルセ“栄光への軌跡”) を紹介しながら、 なぜ彼が、ソンを演奏するバンドが他にも数多くあるのに 「 ソンの再生者 」 と言われているのか考えてみたいと思います。
アダルベルト・アルバレスは、1948 年ハバナ生まれ。3 歳のときにカマグエイに引越し、1966 年にハバナの国立音楽学校に進学し音楽理論を修得。 卒業後、カマグエイに戻り教師をして、1977 年サンチアゴ・デ・クーバで、ソン・カトルセを結成します。( 以上ライナー・ノーツ等より )
そして、ソン・カトルセと分かれてハバナに出て行くまで在籍 6 年間で、「 A Bayamo en Coche 」 ( Areito LD-3834 1979 年 ) 、「 Son Como Son 」 ( Areito LD-3964 1981 年 ) 、「 Adalberto Alvarez Presenta Son14 」 ( Areito LD-4073 1983 年 ) の3作を発表しています。
まず、「 ソンの再生者 」 といわれている理由の一つは、ソンをベースにしたヒット曲を数多く送り出したという点でしょう。 ヒット曲というのは大衆音楽である以上重要な要素で、バンドが存在していてライブを数多く行っていても、誰もが知るオリジナル曲を持っていないと音楽シーンに影響を与えるまでにはいたりません。
そして、その理由の2つ目は、キューバ音楽の本流の一つ、コンフント・ソンをしっかりと継承しているという点です。
一言でソンといっても様々なスタイルがありますが、トランペットを何本も入れたコンフント編成は、アルセニオ・ロドリゲスが隆盛を極めた 1940 年後半 〜 50 年代に確立され、その後、メンバーだったチャポティンが引き続きそのスタイルのソンを演奏し続けていました。
1960 年から 1970 年代には、共産圏の国家として音楽教育が充実し、クラシックやジャズ理論を学んだミュージシャンが増えた一方、 革命以前に歓楽街で演奏されていた音楽や民族音楽は教育から外され、演奏してはならないという方向が広がっていたのです。 イラケレは、ジャズにアフロ・キューバンを融合し、ロス・バン・バンはロックとチャングイの融合を模索するというような傾向が本流になり、1950 年代のソンがメイン・ストリームに出てくることが少なくなっていきます。
そこへ、アルセニオ、チャポティーン・スタイルのアダルベルト・アルバレスのバンドがヒット曲と共に登場。 若者のみならず、古くからのソンの愛好者達に大歓迎されることになるわけです。
そして、理由の3つ目は、アダルベルト・アルバレスの書いた曲が外国のサルサ系アーティストに数多く取り上げられたことにあります。 ソノーラ・ポンセーニャ、ウイリー・ロサリオ、ロベルト・ロエーナ、オスカル・デ・レオーン、フランキー・ルイス、ヒルベルト・サンタ・ロサ、レイ・バレットなど、ラテン・サルサ界の大御所がこぞって彼の作品を採用しました。 演奏者として高く評価されるキューバ人ミュージシャンは数多くいますが、楽曲をこれほどまでに評価されたのは彼だけでしょう。
コンフント・ソンの正統な継承者でありながら、国内のヒット・メーカー。そして海外からもその才能を認められたアダルベルト・アルバレスはまさに「 ソンの再生者 」といえるのです。
今回紹介する 「 Los Super Exitos De Adalberto Alvarez & Son14 」 は、第 1 作からは 5 曲、第 2 作からは 4 曲、第 3 作からは 2 曲の計 11 曲からなりますが、アダルベルト・アルバレスがソン・カトルセに残した自作曲、全 16 曲からボレロ等のナンバー 5 曲を外したものでまさにベスト。 日本のテイクオフ社から 1989 年に発売された貴重盤です。
1. は、アダルベルト・アルバレスのデビュー・ヒット。イントロのアカペラから怒涛の演奏に移っていく熱いナンバーです。
2. は、コロのメロディ・ラインが美しく印象的でトランペット・ソロも素晴らしい、まさに名曲の名演といえる内容。デビュー 1 作目でこの完成度には驚きです。
3. は、ボレロ・ソン。優雅な中にも、骨太なリズムが感じられます。
4. は、火事を題材にした軽快なナンバー。
5. はパーカッションのイントロの後に、始まる速いテンポのソン。
ここまでが第1作から。音数の多いベース・ラインとパーカッションを強調したアレンジが特徴で、骨太でダイナミックな演奏を楽しむことが出来ます。
6. は、流れるような曲調のミディアム・テンポのソン。素晴らしいメロディです。珠玉という言葉はこういう曲に与えられるのでしょう。
7. 第 2 作から加入したフェリックス・バロイのボーカルが堪能できるナンバー。
8. ソン・カトルセのメイン・ボーカル、ティブロンが歌い上げるナンバー。後半のコロのメロディも聴き所です。
9. イントロで、ティト・ゴメス、ミゲリート・クニー、チャポティン、アルセニオ、ロベルト・ファス、ベニー・モレーに捧げるというコメントが入る。キューバ音楽のソネーロのためのソン。既にスタンダード・ナンバーともいえる傑作です。
ここまでが第2作。デビュー作の荒々しさは影を潜め、ミディアム・テンポでありながら徐々に盛り上がるアレンジに変化してます。
10. エレキ・ピアノの音色を多用したナンバー。モダンなアレンジを取り入れ始めた曲です。
11. アダルベルト・アルバレスの傑作曲の1つ。スピード感溢れる演奏の中にも、ゆったりとした優雅な風が吹いているようです。
この2曲は第3作から。リリース直後に、ハバナ組みとサンチャゴ組に分かれることになるのですが、アダルベルトの新たな音楽的方向性が出始めています。
以上全 11 曲。素晴らしすぎるメロディ、怒涛の演奏、駄作が全く見当たらない内容、キューバ音楽史上ベスト 10 に入る傑作作品集です。
アダルベルト・アルバレス在籍時代のソン・カトルセをまだ知らない人は、幾つか編集盤が出ていますので、ぜひ探して聴かれることをお勧めします。そこで、あなたはキューバ人が誇る、心のよりどころといえる音楽に出会えるでしょう。
(福田 カズノブ ★ 2006/05/22)
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