ティンバ、キューバン・サルサ No.1 ライブ・アルバムと評価したい Manolin El Médico de la Salsa の作品 「 El Puente Live in the US 」 を紹介します。
マノリンは、2000 年にマイアミへ移住。その後は、キューバ時代に録音済みだったスタジオ盤 「 Jaque Mate 」 が 2 年も遅れてリリースされましたが、移住後はポップス・アルバムを制作しただけで目だった活動がありませんでした。 そんな中、2002 年に突如発表となった 2 枚組のライブ・アルバムは、マノリン健在を知らせるばかりか、自身の過去作品を超えるアレンジと演奏、 Los Van Van をも凌ぐグルーヴが詰まった傑作!となりました。
各曲紹介しながらその魅力を追及してみたいと思います。
1 曲目 El Puente はイントロダクション。
2 曲目 Y Ahora Baila は、4 作目 「 Jaque Mate 」 からのナンバー。 サルサよりもファンクに近い Andy Gola のベース、アルトとテナーの 2 本のサックスを中心にしたホーン、これぞティンバ・ドラミングといえるような複雑なリズムを叩き出す Reinier Guerrá 。曲の盛り上がりの時にマノリンから 「 チャカ! 」 と呼ばれるピアノの Eduardo Nápoles のフレーズが光る強烈なナンバーです。
3 曲目 Es Que Me La Llevo は、ミディアム・テンポの新曲。 コロは、元NGラ・バンダ、現在は Tiempo Lible 、Cuban Timba All Stars などで活躍している Joaquin El Kid Diaz とキューバ時代からのメンバー Lázaro González が担当。マノリンのほわっとしたボーカルに対して、硬質でスピード感あるコロがコントラストになって、メディコ・サウンドの魅力になっています。
4 曲目 La Vida No Es Tan Tan は 「 Jaque Mate 」 から。 マノリンのボーカル・スタイルは、演奏をどんどん煽っていくところは他のボーカリストと同じですが、サビに入ると演奏とは逆に力を抜いて鎮めるような流れに持っていくところが特徴的。これが絶妙な効果を生み出しています。
5 曲目 Ellas Son Las Que Son は Piano の Chaka のリフが炸裂するファンキーな新曲。 ライブのハイライト・ナンバーの 1 曲でしょう。盛り上がっては静まり、また盛り上がる、これを繰り返されたら観衆はたまりません。1998 年の Timba Cubana Live ( 当 HP “Cuba Trip” コーナー参照 ) では、数万人にも及ぶキューバ人をわしづかみにして熱狂させていました。
6 曲目 Dios Sabe は新曲。この作品では、計 3 曲が未発表曲になります。
7 曲目 Y No Lo Comentes は、3 作目 「 De Buena Fe 」 からのナンバー。 マノリンは、音楽学校出身ではないせいか、演奏主体ではなくシンガー・ソング・ライター的なところがあります。彼の創りだす哀愁のあるメロディは、素晴らしいものが多いのでそのあたりも聴き所でしょう。また、メディコ・サウンドの要としてなくてはならない存在なのは、アレンジとシンセを担当している Luis Bu Pascual 。マノリンがマイアミに移住したとき彼が同行したかどうかは最大のポイントでした。
8 曲目 Jaque Mate は、4 作目 「 Jaque Mate 」 のタイトル・ソング。 Tomás Cruz のコンガ、ギロと同様な役割を担っているギター、そしてピアノの Chaka のリフがメディコ・サウンドの核となって 3 連のリズムをきざんでいます。
DISC TWOの 1 曲目 Somos Lo Que Hay は スター・ウォーズのテーマから始まる3 作目 「 De Buena Fe 」 からの作品。 Manolin El Médico de la Salsa は、デビューから 1 作ごとにそのサウンドを進化させていましたが、キューバに住むキューバ人のための音楽を超え、新たな地平に飛び出していったのはサウンドから見ても必然だったのかもしれません。
2 曲目 A Que Me Mantengo はセカンド・アルバム 「 Para Mi Gente 」 から。 マノリンのサウンドからは、キューバの伝統音楽を守っていこうとする部分があまり感じられません。アフロな8分の6拍子を基本にしながら、あくまでもファンキーさを追求しています。
3 曲目 El Que Esta Que Tumbe は 「 De Buena Fe 」 から。 ボンバという、ベースを爆弾のような感じでブーンと入れ、他のメロディ楽器を抜いて素にするアレンジは、1990 年代中期以降ティンバをサルサ・ドゥーラといっていたころはお決まりの展開でしたが、現在もそのアレンジを使用しているなかで、素晴らしい効果を出しているのはメディコだけでしょう。
4 曲目 Me Pase De Copas は 「 Para Mi Gente 」 に入っている初期の代表曲。 このライブ・バージョンはオリジナルがおとなしいアレンジだったこともありますが、厚みのある最高な出来になっています。
5 曲目 Pegáito は「 Jaque Mate 」から。 メディコのホーン・セクションは常にバックで演奏しているわけではなく、ここぞという時だけ出てきます。その音色、フレーズは強力で他のバンドより印象的です。
6 曲目 Arriba De La Bora は 「 Para Mi Gente 」 からのナンバー。 Manolin El Médico de la Salsa は、チャランガ・アバネーラのようにダンスで魅せるという部分はまったくなく、あくまでも音楽のみで会場を虜にする力を持っています。
全 14 曲、どの曲も聴き応えのある演奏と歌で駄作なし、ティンバ・ファン必聴のライブ・アルバムです。
現在、キューバ音楽の担い手の中で 「 まだ聴いたことのないような最高傑作を今後リリースするのではないか 」 、 「 ライブを生で観たら度肝を抜かれるような感動を受けるのではないか 」 と期待を持たせてくれる数少ないアーティスト、それがマノリンなのです。
今はこのライブ・アルバムを聴いて、新たな感動が訪れる時を待っていたいと思います。
(福田カズノブ ★ 2006/06/19)
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