キューバ人の演奏能力の高さには定評がありますが、特にパーカッションは群を抜くものがあります。 Calixto Oviedo は 1990 年前半、NG La Banda メンバーとして数回来日。凄まじいばかりの演奏で聴衆の度肝を抜き、神保明をはじめ日本人ミュージシャンからリスペクトを受ける存在になっていました。 現在は他にも数多くのキューバ人パーカッショニストが注目されていますが、世界中から尊敬を受けるキューバ人パーカッショニストのひとりとして、彼は忘れることの出来ない存在です。
Calixto Oviedo は 1955 年ハバナ生まれ。音楽学校を出てから、Pacho Alomso や Arturu Sandoval グループで仕事をして、1983 年、Son 14 から離れた Adalberto Alvarez y su Son に加入します。 そして1990 年に Pachito Alonso y sus Kini Kini へ移籍するまで、アダルベルトの黄金時代をリズム面で支えてきたわけですが、当時の演奏ビデオを見ると、ティンバレスでリズムを刻みながら、バスドラを効果的に入れる奏法はアダルベルト・サウンドの骨太なグルーヴのまさに中心といった感がありました。
その後、1991 年、イサック・デルガード・バンドへ移籍したピロートの後釜として NG La Banda へ加入します。 当時の人気バンドを次々と渡り歩くカリストは NO.1 パーカッショニストの名をほしいままにしていました。 1996 年、やや失速気味の NG La Banda から独立しソロとなったカリストは、ヨーロッパを活動の拠点にします。
そして 2000 年、チャランガ・アバネーラ周辺のミュージシャンを使って、この初ソロ作「 La Recompensa 」を発表します。
この作品の聴き所は3つ。 カリストのキレの良いパーカッション、豪華なボーカル陣、そしてそれらを生かしたアレンジを担当する Osmany Collado ( チャランガ・アバネーラでの活躍も素晴らしい )の仕事でしょう。 各楽曲をみていくと、
1. Presentacion はアルバム紹介のコメント。
2. Cuando Yo Sea Grande はミッチェル・マサがリードをとるミディアム・テンポのキューバン・サルサ。コンガの音が良く響き、ミチェルのボーカルと共に心地よいグルーヴを生み出しています。
3. Odiame はチャランガ・アバネーラのシンガー、Anette Mota がリードをとるコンテンポラリー・ソン。カリストの演奏はティンバより、NG 以前のバンド・ソンのほうがフィットする感じがします。
4. Una Corazonada はインストゥルメンタル・ナンバー。ピアノとベースそしてパーカッションのアンサンブルが最高です。
5. Mambo Sato はこのアルバムの後、チャランガ・アバネーラとハイラ・モンピエのライブ作品にも収録された作品。 オスマニーの作曲ですが、現代のキューバ音楽では珍しいマンボのリズムです。ハイラの代表曲の1つともいえるコンテンポラリー・マンボの傑作といえます。
6. Timbero はティルソが歌うナンバー。パーカッションはルンバです。
7. Cristina は 4 と同じくインストです。カリストは音楽学校卒業の頃、ルベーン・ゴンザレスと演奏を共にしていますが、その頃を彷彿させるモダンなダンソンになっています。
8. ¿ Por Que Te Vas De Mi Vida ? は本作の最大の聴き所。 徐々に盛り上がっていく展開をミチェル・マサがソウルフルに歌い上げています。ホーンとピアノの印象的なメロディの間を埋めているのはティンバレスとコンガ。押さえ気味の中に熱いグルーヴが静かに存在している名演です。 作曲家オスマニーの才能が開花した傑作でしょう。
9. Si Tu No Estas は、美しいギターが聴けるスロー・ナンバー。ボーカルはカリストの娘か親戚でしょうか。
10. Rumbero De Corazon ティルソが歌うルンバ。この曲はティンバ・テイストのアレンジになっていますが、従兄弟のような関係であるところのルンバとティンバがさらに同化しています。ティルソは自身のソロ・アルバムでもティンバ・アレンジのルンバを多く歌っています。
11. La Recompensa はティルソ、ハイラ、アネ・モタが歌うタイトル曲。 このアルバムにはカリストの息子、Yulién Oviedo も参加していて、さながら歴代チャランガ・アバネーラを再現するようなメンバー構成になっています。
2000 年に発表されたこの作品、カリストがテクニック至上主義ではなく音楽性重視であることがよくわかる隠れた名盤といえるでしょう。 また、アレンジ、作曲の大半を担当したチャランガ・アバネーラの Osmany Collado の仕事振りは素晴らしく、事実上、彼のリーダー・アルバムともいえる側面も持つ作品だったのだと感じました。
(福田 カズノブ ★ 2006/07/17)
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