《ロス・バン・バンはキューバを代表する オルケスタであるだけでなく、30年以上にわたり その人気を保ち続けてきた。》
これは、周知のこと。 しかし、本当に評価すべきは70年代、80年代 90年代と、常に新機軸のサウンドを生み出し 練り、「ロス・バン・バン・スタイル」として 世に送り続けた、その革新的に 音楽を推し進めてきたという事実に他なりません。
今回、注目したいのは1970年代 初期のバン・バン・サウンド。 バン・バンの真の偉大さを感じる「1974」です。 このオルケスタを「最高にHOT」と表現することも きっと間違いではないのでしょうが、本作を聴けば 「狂気的なまでにCOOL」のほうが 適当なのでは、と思うくらい、中期以降の作風とは カラーが異なります。
私が驚くのは リーダーであるファン・フォルメルが 今から30年以上も前に、ここまで 何とも似ていず、かつ音楽的に完成されたものを 作りこんでしまっていたということです。 もちろん ここから聴こえてくる音の 魔術的な魅力を支えているのは 彼一人ではなく、 フルートの効果も多大ですし チャンギートによる 神業的なパーカッションや プーピ・ペドロッソの、人を惑わせるようなオルガン など 超絶的な音楽性を持つメンバーが集結していることで こうした作品が完成したわけです。
また、プロデューサーに 近未来的な音を好み、自らも「super son」という とんでもないサウンドを創り上げてしまった ファン・パブロ・トーレスが 起用されているときけば、この 聴き手をかき乱すような 空恐ろしくなるまでの 美しさの理由がわかる気もします。
これはキューバ音楽とか、アフロとか そういったルーツをたどることすら 放棄させてしまう「とんでもなく新しい音楽」です。 これは、2000年を超えた現在でも いえ、さらに50年後に聴いたとしても 同じことを思うのではないでしょうか。
ここでは 2000年代の同オルケスタで 人気を博している、歌手のマジート・リベーラや 80年代から90年代にかけて、看板歌手を務めた ペドロ・カルボのように華のある ボーカルが、中核になっているわけではありません。 歌は 静謐さを常に孕んだ 目眩ましのような音の波に 不安さえ憶えるころ ひそやかに入ってくるだけ。 なのに、 気づけば心を震わせ 涙しそうにさえなってまう。
名盤中の名盤です。
オープニング「ジェゲ・ジェゲ」から 終曲「キューバ人の勇気とプライドは永遠だ」に 至るまで、じっくりと そして、何度でも聴いてください。
*なお、本作品はロス・バン・バンのサード・アルバムに 未発表曲であった♯12を追加して、1994年に 日本のレーベルから初CD化されたものです。 こうした貴重かつ重要な作品からいくつかの曲は 村上龍監督の映画「トパーズ」にも使用されました。
(DJ KAZURU ★ 2006/08/28)
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