Charanga Habanera の原点にして、ティンバの出発点となった 1 枚 「 Me Sube la Fiebre 」 を紹介します。
リーダーの David Calzado は、1981 年バイオリニストとして当時の人気バンド、リトモ・オリエンタルに加入。 1986 年にはバンドを抜けてキューバ国営音楽公社エグレムのディレクターに就任し、1988 年にはモンテカルロで箱バンを任されることになります。 そのバンド名はハバナから来たチャランガ楽団ということで 「ラ・チャランガ・アバネーラ」 と単純に命名され、トラディショナルなアルバムを 1 枚制作しました。
1991 年にようやくキューバに帰国したダビ・カルサードは、 バンドのメンバーを若手中心にして、バイオリンをはずし、ブラス・セクションを強化して、当時キューバで人気のあった NG・ラ・バンダのようなスタイルのバンドを目指し練習を開始します。 それはモンテカルロ時代に欧米のアーティストから学んだエンターテイメント性を最新のキューバ音楽に加え、世界へ進出する計画のスタートだったのです。
そして遂に 1993 年、事実上のデビュー・アルバム 「 Me Sube la Fiebre 」 を発表。 そのサウンドはトラディショナルなキューバ音楽や NG ラ・バンダが開発したスタイルを教本にしつつも、それまでのキューバ音楽にはまったくないタイプで斬新なものでした。
1980 年代に全盛を極めたバンド・ソンは、NG が人気を獲得したことで後退し、チャランガ・アバネーラの出現で世代交代を余儀なくされることになります。
この作品の注目すべき点は2つ。 1つは、今では考えられない程、豪華なライター陣を起用していること、 そして2つ目はどの曲もチャランガ・アバネーラ・スタイルの楽曲になっていることです。
各曲を見ていくと、
1 曲目 「 Fiebre de Amor 」 は、NG La Banda から Issac バンドを経て、Klimax を立ち上げた Giraldo Piloto 作。明るくキャッチーなメロディで、チャランガ・アバネーラ初のヒット曲となります。また、ダンスの振り付けという楽しみ方も提示しました。
2 曲目 「 Extraños Ateos 」 は、Bamboleo のライターとして名曲を発表し、その後、自らのバンド Azucar Negra を結成する Leonel Limonta 作。ピアノ、コロ、ホーン、パーカッションが絡み合いながら躍動しています。
3 曲目 「 Felicidad 」 は、ボレロ・ナンバー。チャランガ・アバネーラは、ボーカル重視のグループであることを表しています。
4 曲目 「 Te La Voy a Liquidar 」 は、後に Medico de la Salsa を結成するマノリンの作品。ドライブする躍動感はチャランガ・アバネーラの真骨頂。この曲は、リズム表記では 「 Guaracha 」 となっていますが、明らかにティンバです。
5 曲目 「 Pregon del Chocolate 」 は、Issac Delgado 作。後に自身のアルバムにも採用したファンキーなナンバーです。
6 曲目 「 Para el Llanto 」は、4 曲目同様マノリンのペンによるもの。ミディアム・テンポながら徐々に盛り上がる美しいメロディの曲です。
7 曲目は 「 Te Necesito 」 は、このアルバムでオーケストレーションも担当しているメンバーの作品。チャランガ・アバネーラは、他のティンバ・バンドがジャズを音楽的な基盤の1つにしていることが多いのに対し、チャランガ・ソンを基本にしているのですが、そのことが良く分かるナンバーです。
8 曲目は 「 En Crisis 」 は、リズム表記では 「 Son 」 となっていますが、とてもそうは思えないファンキーな1曲。当初 「 Son 」 として書かれたメロディが、チャランガ・アバネーラ・スタイルのアレンジを通過するとこうなるという典型例です。
これだけのライター陣をそろえてもアルバムのトーンは一定し、統一感すら感じられます。これは、ベースとホーンのメロディ・ラインをシンプルにし、コロやパーカッションで複雑な展開をするというチャランガ・アバネーラのサウンド・スタイルがデビュー時から確立していたからでしょう。
殆どのティンバ・バンドはドラムスを採用していますが、トラディショナルな編成であるティンバレスを守ることで、逆にオリジナリティーを出すことに成功したチャランガ・アバネーラ。 奇抜なファッションやアグレッシヴなダンスに目が行きがちですが、リーダーであるダビ・カルサードは、新しいものを取り入れ時代を創ってきた中で、ルーツを見失わない視点を持っているといえます。
この作品は、そんな原点が凝縮したまさにチャランガ・ファンのバイブルともいえる一作です。
(福田カズノブ ★ 2006/09/18)
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