万華鏡のようなギターに絡むバタのリズム。 そして複雑に織り成すボーカルとその不思議なメロディ・ライン。 1994 年にデビューしたスペイン在住のキューバ人男女のギター・デュオ Gema y Pável は ソンでも、カンシオンでもない、ボレロともいえない 独特な音の世界をもっていました。
彼らの音楽は当時、明らかに キューバ音楽の進化に対して1つの方向性を示していたのですが、 その後到来する世界的なブエナ・ビスタ・ブームや キューバ国内のティンバの盛況にかき消されて、 話題にのぼることなくアンダー・グラウンドな存在になってしまいます。
そしてしばらく時が流れ、 ワールド・ミュージック・シーンではジューサが脚光を浴び始めます。 聴いてみると、どことなくヘマ・イ・パベルに共通する感触があると感じたのですが、 やはりプロデュースに名を連ねていました。 その後、次々にシーンに現れ始めたミクスチャー系のアーティスト達。 インテラクティボ、ロベルト・カルカセス、テルマリー、デスセメール・ブエノ、 ペドロ・マルチネス、アイデー・ミラネス。 彼らは全て、ヘマ・イ・パベルに続く後輩達といってもよいでしょう。
現代美術展に行ったときのような感覚になるこれらの音楽は、 ソンやティンバのようにフォーマットが確立され過ぎていない上に、 様々な国の音楽を要素として吸収しているので、 スペインやブラジルのアーティストなどとも盛んにコラボレイトを進めています。 今や国や地域を越えた大きな音楽ムーヴメントになりそうな兆しすらありますが、 その核の1つがヘマ・イ・パベルであることは間違いありません。
ヘマ・イ・パベルの作品は計4枚。 1994 年の 「 Sin Tomas De Fe 」 1996 年の 「 Cosa de Broma 」 1999 年の 「 Sintonas de Fe」 2003 年の 「 Art Bembe 」
今回紹介するのはセカンド作 「 Cosa de Broma 」。 彼らの音楽の原点を楽しめる点と傑作曲が存在しているので選びましたが、 1999 年と 2003 年の作品も聴き応え充分です。
その傑作曲とは 6 曲目の 「 Mayeya 」。 ギターとデュオだけのシンプルな構成ですが、 躍動感溢れるグルーヴといい、心打つ美しいメロディといい、まさに ヘマ・イ・パベルの才能が結晶となった作品です。 後半は、サンテリアになっていきますがそこも聴き所。 この1曲のためだけに、このアルバムを手に入れる価値が充分あります。
キューバ音楽は 100 年以上前に、ヨーロッパの音楽とアフリカのリズムが ドッキングして生まれたものですが、 また改めて別の形でぶつかりあって、再び新しい音楽が成立しつつあるのでしょう。
伝統的なソン、 サルサやジャズあらゆる音楽を飲み込みながら バイラブレであることを基調にしたティンバ、 そしてさらに第3極としてミクスチャー・キューバンがくるならば ヘマ・イ・パベルは、押えておくべき最重要なアーティストであるといえます。
(福田カズノブ ★ 2006/10/03)
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