亡命キューバ人が USA でサルサ・アルバムを出して人気を得るようになったのは 1990 年代半ば以降。いち早く成功したレイ・ルイスに続けと、ミレス・ペーニャをはじめ多くの歌手がデビューしています。
一方、キューバ国内組のサルサ系ソロ歌手は、イサック・デルガードを筆頭に、パウロなどがあげられますが、そのサウンドは USA ものとは明らかに異なり、ボーカルを中心にしながらもバンド・サウンド重視でした。
つまり、キューバ国内から USA のサルサと同じ空気感のあるサウンドは今まで出てくることはなかったのです。
2003 年 Gardi のデビュー作は、その傾向を見事に打ち破り、USA 側でよくある男性ソロ・シンガー系のサルサ・アルバムに仕上がっていました。 特徴は、ボーカル・スタイルと曲調。 透明感のある伸びやかな声と歌い方はキューバ国内にはなかったものです。 また、曲調も歌ものに徹したあたりが珍しく、どうしても後半のモントゥーノでごりごりになるところを、さらりとセンスよく収めているあたりが他にはないやり方でした。
音楽の革新は、全く初めてのところから生まれるのではなく、組み合わせを変えることから偶然生まれることが多いのですが、この作品はまさにその好例でしょう。
USA のサルサのスタイルを、キューバ人のテクニックと感性で演奏するとどうなるか。 それが、どちらにもない新しさを生み出した訳です。 それらは Gardi の音楽的指向があってのことですが、重要なのは作品を手がけたプロデューサー、元 NG の重鎮、ヘルマン・ベラスコの手腕。 またバックのミュージシャンにピアノに Rolando Luna 、ベースに Roberto Riverón 、トランペットに Alexander Abreu 、トロンボーンに Amaury Pérez、トレスに Pancho Amat という腕利きのメンバーが集結していることも、聴き所でしょう。
1973 年生まれでまだまだ若い Gardi。 クバニスモのコロとして、ハウステンボスに長期滞在していたとき、ソロで1曲素晴らしいサルサを歌っていたことを思い出します。 この作品では、9 曲目がベスト・トラック。 ボーカルを盛り立てながら、切れのある演奏も楽しめる、まさにどこにもないサルサといえる傑作です。
この Gardi の作品で、キューバとニューヨークの音楽的関係がまた展開し始めたと感じます。 キューバのソンのフォーマットを土台に様々な音楽が混ざって生まれたサルサ。 そのサルサに影響され、キューバから新たなリズムとして出てきたティンバ。 そしてそのティンバに影響された セルヒオ・ジョージ周辺のアレンジ手法。 そして、ニューヨークのサルサそのもののスタイルを借りながら、キューバ人ならではの解釈で演奏したキューバ発のサルサ。
ラテン音楽は、様々な音楽が影響しあいながら 「 らせん階段 」 のように連なって進化していくのだろうと、この Gardi の作品を聴いて感じました。
(福田カズノブ ★ 2006/12/25)
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