中南米全域でも人気のあるスペインのシンガー・ソング・ライター Joan Manuel Serrat の作品をキューバのそうそうたるアーティスト陣が演奏した企画物。 全て新録というところからもただのコンピとは一線を化し、トータル・アルバムとしての存在感をもったアルバムになっています。
聴き所は、キューバにはないジョアン・マヌエル・セラートのメロディ・ラインをそれぞれの音楽スタイルのアーティストがどのように料理したかという点。
トラディショナル・ソンのスタイルからの参加は、Pancho Amat ( CD-1 @ )、Trio Taicuba ( CD-2 C )、Familia Valera Miranda ( CD-2 G )の 3 組。 ソンという音楽の前半、ギア部分はスペイン色が強いので、全く違和感のない作品になっています。Familia Valera Miranda のバンド・グルーヴ、Pancho Amat の素晴らしいアレンジがいいという人はこのタイプのソン好きの証でしょう。
ブエナ・ビスタ組からは、Omara Portuondo ( CD-1 A )、Grupo Compay Segundo ( CD-1 C )、Ibrahim Ferrer ( CD-1 E )、Pío Leyva ( CD-2 E )の4組。 セールスを考えると欧米向きには外せない面々ですが、しっとりとしたオマーラの歌、ロベルト・フォンセカなどによるモダンなアレンジとイブライムのボーカルの不思議なコントラスト。ピオ・レイバのバックで聴けるエッジの利いた演奏など、それぞれなかなかです。
キューバ音楽の巨匠といわれる人達の参加は、Orquesta Aragón ( CD-1 B )、Silvio Rodríguez ( CD-1 F )、Pablo Milanés ( CD-2 @ )、Chucho Valdés ( CD-2 A ) の4組。 いずれもセラートの作品という感じはまったくなく自分の音楽世界にしています。特にパブロ・ミラネスは出色の仕上がりで、彼は作曲者のみならずボーカリストとして最高クラスの実力者なのだということがよくわかります。
サルサ・ティンバ勢からは、Vania ( CD-1 D )、Haila ( CD-1 H )、Charanga Habanera ( CD-1 I )、Pupy y los que Son Son ( CD-2 B )、Bamboleo ( CD-2 I )の5組の参加。 タタ・グイネスの参加したバンニアのファンキーな演奏、チャランガ、プーピ、バンボレオは、それぞれの持ち味を生かしながら楽曲のメロディに忠実な演奏になっています。この中でよかったのは、バンニアとチャランガ・アバネーラ。チャランガ・アバネーラは良い楽曲さえあれば、素晴らしい歌と演奏ができる最高なオルケスタなのだということを改めて感じました。
その他、ヌエバ・トローバ系サルサの David Álvarez や新傾向のミクスチャー・キューバ音楽を演奏する若手グループなどが参加し、さらに幅の広いキューバ音楽を聴かせています。
ジョアン・マヌエル・セラートの都会的なメロディと懐の深いキューバ音楽の融合が絶妙にマッチしたこの作品集、2005 年のラテン・グラミー賞コンテンポラリー・トロピカル部門にもノミネートされるなどキューバ以外で評価されましたが、それぞれのアーティストの比較や別の一面を見ることが出来るアルバムとして、見逃すことはできません。
(福田カズノブ ★ 2007/05/03)
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