キューバン・サルサ、ティンバがいつ生まれたのかという議論の中で避けては通れない重要作 「 Ciclo 」 と 「 Siglo 」。
これらの作品は、1996 年当時チューチョ・バルデス率いるイラケレに在籍し、サルサとジャズを強引に融合させたナンバーをディレクションしていたホセ・ルイス・コルテスが、若手ミュージシャンを集め、バンド外のプロジェクトとしてスタートしたことに始まります。
Siglo 名義の作品はジャズ寄り、Ciclo 名義のものは Son、Salsa 寄りで、共に LP 2枚づつ、計 4 枚もの作品がエグレムからリリースされたのです。
当時どの程度この作品がキューバ国内で流通したのか、また人々にどう受け入れられたのかは定かではありませんが、今現在 ( 2007 年 5 月 時点) までフル CD 化されたことがなく、勿論 LP の日本発売もなかったことから、実際に音を聴いている人が極めて少ない幻の作品になっています。
今回は、一体となったプロジェクトのうち 「 Ciclo 」 のほうに焦点を当てて見たいと思います。
この作品で、ホセ・ルイス・コルテスが声をかけたメンバーはその後のキューバン・サルサ、ティンバ・シーンを担う重要人物がずらり。まるで明治維新の志士のような趣でした。
主だったミュージシャンは、イラケレの同僚であり、プロジェクトの共同企画者 Germán Velazco、ボーカルには Van Van の Pedro Calvo、そしてNG の Tony Calá、ベースには NG の Feliciano Arango とアフロクーバの Omar Hernández、ティンバレスに Calixto Oviedo、ピアノに Gonzálo Rubalcalba、バイオリンには名アレンジャー Dagoberto González などなど。
チューチョ・バルデスの配下を離れ、ホセ・ルイスはこの 「 Ciclo 」 でイラケレでは出来なかったアイデアの実現化を図ります。 その一つは、歌に重心を置いた作品群。 どうしてもイラケレはインストルメンタル指向が強いので、この作品では、サルサやソンに大きくシフトしています。ところが、当時全盛期を誇っていたアダルベルトやルンババーナ、レベのソンと同様なものを目指していたのかというと、そうではなく演奏そのものは明らかにジャズなのです。
音の位置づけは、80 年代のイラケレとイサック在籍時の初期 NG La Banda のちょうど中間点。この作品なくしては、NG La Banda の誕生はなかったのでしょう。 それを裏付けるかのように、LP Ciclo の裏ジャケットには、Nueva Generacion de Musicos Cubanos と表記されている箇所があるのです。 これはまさに、Nueva Generacion La Banda の事。
音楽的な完成度からすると、NG La Banda の方がライブを行っていることや、イサックやピロートという稀有な才能が更に参加しあこともあって、上回っていることには間違いありませんが、 この 「 Ciclo 」 の方がキューバン・サルサ、ティンバ時代の夜明け前の息吹をより大きく感じることが出来ます。
ホセ・ルイス・コルテスはこのプロジェクトで、これらのサウンドが今後のキューバ音楽の中心になっていくことを確信し、盟友 ヘルマン・ベラスコとともに、プロジェクトのメンバーとイラケレの同僚、そして他のバンドから有能な若手をピックアップしてきて、NG La Banda を結成。完全にイラケレを脱退し自らの道を歩み始めます。
キューバン・サルサ、ティンバ発生の再源流で大きなきっかけとなった作品群。 このときのアイデアが発展し、1990 年代以降の10 年間のティンバ・シーンが形成されていくのです。
今回は、入手しにくい LP 作品を取り上げましたが、フル CD 化実現の小さなきっかけになればと考えて掲載しました。
どうしてもという方は 「 N.G.LA BANDA con issac Delgado 」 GDN-CD-0006N 2000 年リリースのベスト盤に、Ciclo から 6 曲収録されていますのでお探しになってはいかがでしょう。
(福田カズノブ ★ 2007/05/15)
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