イサック・デルガード亡命後の第 1 弾アルバム。コンテンポラリー・キューバン界にとって変革の節目となるかもしれない作品の登場です。
音楽は今やインターネットで世界を駆け巡り国境などもはやないという意見もありますが、ことラテン・サルサ界ではキューバと US との政治的な確執は確実に音楽にも影響を与えています。
スペインとキューバを自由に往来できる立場をもっていたであろうイサックが、あえて亡命という大きなリスクを科してまで US へわたったのか。 音楽面だけで語れば、やはりラテン・ミュージックのマーケット発信源がマイアミに集中していること。そして 1990 年代に活躍したティンバ系の重要ミュージシャンの多くが亡命してしまい本国にいないことなどが挙げられます。そして今回のスピード・リリースから推察すると、亡命前にセルヒオ・ジョージとのビジネス契約が成立していたという見方もできます。
イサックは新たな音楽的フィールドを目指し、セルヒオはキューバン・サルサのトップ・カンタンテを自分たちの仲間に迎え入れ、ラテン・ミュージックの中では後退気味のジャンル、サルサの活性化を図ろうという双方の思案が一致したのだと思います。
さて、肝心の音はどうなったのでしょうか。実はこれが賛否両論が出そうな仕上がりなのです。 1 曲目はセルヒオ制作でビクトル・マヌエルがゲスト参加しているナンバー。イサックの声が後半のややベタなサルサ・アレンジに対しミスマッチとみるか、素晴らしいとみるかに分かれそうです。 キューバ音楽至上主義者からは、演奏やアレンジの中に明らかにキューバ外の音が混ざっていることに、「私のイサックが。。。」という嘆きの声も聞こえて来そうですが、イサックのボーカルは Otra Idea や Primera Noche 時代に戻ったかのような勢いを取り戻しています。
キューバ音楽ファンが胸を撫で下ろすのは、7 曲目のタイトル・ソングから続く 3 曲。 中期イサック・バンド時代の盟友ベーシストのアライン・ペレスがディレクトールし、キューバそのもののアレンジを展開しています。
これらの曲の躍動感はどうでしょう。ここ数作のジャズやヌエバ・トローバよりの作品や初期のキューバン・サルサへ回帰した前作などと比べると明らかに新しい境地へ進みつつある勢いがあります。
キューバン・サルサ、ティンバの停滞を打開するかもしれない久々の音がこの作品には存在していますが、それがイサックの亡命作というのはファンとしては複雑な気持ちです。 サルサ側のマーケットでは売れそうな感じです。いや、その後に続く他の亡命キューバ人ミュージシャン達のためにも。売れてもらわなくては困るのです。
そして、ポップスやレゲトンにはしるキューバ人サルサ系ミュージシャンが、路線を変更してイサックの後に続くことを強く望んでしまうのです。
私はこのイサックの作品 「 En Primera Plana 」 を傑作という評価で指示したいと思いますが、世界のサルサ・ファン、キューバ音楽ファンはどのような評価を出すのでしょうか。
(福田カズノブ ★ 2007/05/28)
|