自覚している人も多いでしょうが この15年の間、我々日本人の音楽的美意識は サバービア・橋本徹氏に、かなり 植え付けられたのではないかと思うわけです。
「マニア」という言葉に込められている、いわゆるオタク、コレクター的 はたまた研究者を髣髴とさせる聴き方が「深い」とされていたところへもってして 彼らはフリー・ソウルの概念と共に「洒脱」な聴き方こそが美しいのだという 文化を日本に根付かせたのです。
限定盤を有しているとか、誰それの作品は全て揃えているとか そんなことが自慢か? とサラリとかわすように(本人そのものは オタクに違いないとしても)サバービアな聴き方は世の中を(おそらくは 渋谷を中心として)席巻しました。
このコンピレイションは、そんな洒脱なサバービアがラテンを斬る、という 企画です。 FANIAレーベル音源に限られてはいますが、例えばサバービア的なる物を キューバン・ティンバからみつくろって戴いてもどうにもなる訳ないので これは問題ではないでしょう。 一つ一つの楽曲が全て優れているとは思いませんし、この他の選択が なかったのだろうかと言えば、そんなことはないでしょう。しかし、それでも このセレクションは美しいです。
私の愛する♯4「NICA’S DREAM 」も収録されていますし(よくぞ これを入れて下さいました)、ロバータ・フラックの♯5や ♯17など、名曲ラテン・カヴァーがなんともよいのです。 そう言うと、なあんだという向きもあるでしょうが、これこそこのテのコンピを 爆発的にヒットさせてきた氏の真骨頂ではないでしょうか。 だってこれらはfree soul シリーズのどこかに紛れ込んでいても 違和感のない楽曲なのです。
FANIA盤のCD再発が続く昨今ですが、こういう解釈もアリなのだということは オリジナル・アルバムをひたすら聞いているだけでは気が付きにくいものです。 ここにおいてはFANIAレーベルの知識など併せ持つ必要さえもないのですから。 氏はこの作品を「ジャジーでメロウでハートウォーム」と述べていますが 仰るとおりで御座います。
(DJ KAZURU ★ 2007/06/04)
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