かつてソン・クバーノは、現在のクバトンや Hip・Hop、少し前の Timba と同様にキューバ国内の若者にとって最も先端でヒップな存在の音楽でした。
そういった流れは、幾つかの要素が組み合わさったときに出現します。 ひとつはミュージシャンが新しい音楽のスタイルを提示したとき、そしてそれがオーディエンスの支持を集め、類似したバンドが複数出てきて、さらにライブでは人気が人気を呼ぶといった現象も起こり、演奏はそれを受けて熱いものになってきたときがまさにその状況なのです。
ところが、そのどれかが無くなって来ると流行は過ぎ去り、そのサウンドは消滅するか、形式だけが保存されるかのどちらかの道を歩んでいき、演奏からは熱さが抜けてしまいます。
今回紹介するアラミス・ガリンドは、1980 年代の中心的なサウンドだったソン・クバーノの名門バンド、アダルベルト・アルバレス・イ・ス・ソンのトップ・カンタンテを1990 年代中期から 2000 年くらいまで務め、その後独立して自身のバンドを立ち上げ今日に至っていますが、 今回紹介する 2001 年のデビュー作には流行の要素のひとつである現在進行形の熱い演奏があるのです。
彼の出身であるアダルベルト・アルバレスのバンドからは、1980 年初期の SON14 時代にティブロン・モラレス、そしてイ・ス・ソンになってフェリックス・バロイ、そして 1990 年代にはバレンティン、ロヒータス、一時パウロもコロで在籍していた位、名ボーカリストを数多く輩出しています。
1980 年代は男臭い低音のボーカルが流行でしたが、1990 年頃イサックの登場と共にハイ・トーンの甘いボーカルがキューバでは主流になり、アダルベルトのバンドも追従するように、ロヒータスやアラミス・ガリンドというハイ・トーンのボーカルを中心にすえ、1990 年代中期以降も 1980 年代に劣らない勢いを保持します。
ところが、アラミス・ガリンドの独立でアダルベルトのバンドはカンタンテの柱を失い、楽曲は良いのにもかかわらず、失速気味に陥ってしまいます。いかにアラミスのボーカルが重要だったということは、2000 年の彼の独立で明らかになるのです。
本来、アダルベルトとアラミスはひとつのバンドで活動するのがお互いの才能を生かす道なのですが、今となっては後戻りできません。
このアラミス・ガリンドの作品からは、ソンでありながら、アレンジとしてティンバの都会的な部分を取り入れ、けして過去の焼き直しではないサウンドを提示していて勢いがあります。エッジの利いた演奏は現在のアダルベルト・イ・ス・ソンを凌ぐものすら感じさせるほど。
この作品のハイライト曲は5曲目。モントゥーノをベースに現代的なアレンジと勢いのある歌唱が光ります。10 曲目のタイトル・ソングはスケールの大きい Son。
トラディショナル・ソンの進化系であるホーベネスなどがメンバー・チェンジで立ち止まる中、アラミス・ガリンド・バンドにはアダルベルトと共に勢いを保った活動をぜひ続けて欲しいものです。
ティンバがキューバ音楽のコンテンポラリーな地位から退いた今、逆に1980 年代のソンが脚光を浴びるかどうかは、アラミス・ガリンドの動向が大きく作用する気がするのです。
(福田カズノブ ★ 2007/07/16)
|