キューバのバンドは、他国のポピュラー・バンドとは違い、メンバー・チェンジが激しいことでは群を抜いています。 それは資本主義社会では当たり前となっているプロダクション契約などが希薄なためですが、 一方バンドはリーダーやディレクトールのもので、多くのバンド・メンバー達が上を目指して移り行くことを全体として容認しているようでもあるのです。
今や世界の Los Van Van。そして人気、バンドの状態も復活気味の Bamboleo。 共にオリジナル・メンバーだけで、バンドを支え続けてきた訳ではありません。 その 2 バンドの主力メンバーを供給しているのはPachito Alonso y sus Kini Kini なのです。
今回紹介するのは、アナログで 3 枚発表後、CD では 2 作目にあたる彼らの作品 「 ¡Ay! Qué Bueno Está 」 です。
メンバーには、バンボレオのリーダー、ラサロ・バルデス。 今やキューバ音楽界を代表する歌姫、元バンボレオのバンニア。 ロス・バン・バンのフロントの中核、ロベルトンとレレ。 そして、トロンボーン奏者としては引く手あまたのアマウリー・ペレスというオール・スター・メンバーが在籍していたのです。
これだけのメンバーがいたのに、後にロス・バン・バンのようにならないことが不思議なくらいですが、それはマジートのようなルックスやカリスマ性を持ったボーカリストが不在だったことや、キャッチーなヒット曲に恵まれなかったこと、そして中堅バンドなのに海外公演が極端に少ないことがあげられるでしょう。
とはいっても、そのサウンドはベテランならではの重厚間に溢れ圧巻ですらあります。 キューバ音楽ファンならば、1980 年代のバンド・ソン、1990 年代初頭のキューバン・サルサ、中期のサルサ・ドゥーラ、そして後期のティンバ時代をくぐり抜け、今なお、不動の中堅バンドとしてどっしりと構えているパチート・アロンソを知らないわけにはいかないでしょう。
現在のシーンがなかなか活況にならない最大の原因は若手、中堅バンドの勢いのなさにあるのは明らか。 次々にトップ・バンドにメンバーを提供し続けても揺るがないパチート・アロンソのようなバンドがキューバ音楽の土台を支えているのです。
さて、このアルバムの聴き所といえば、ロベルトンがボーカルをとる 3、4、11 曲目。 ややはねるようなリズムに、トロンボーンとトランペットが交互に畳み掛けるように展開する曲調はパチート・アロンソならでは。
そして若き日のバンニアのボーカルが聴ける 10 曲目も隠れた作品でしょう。
レアなアルバムではありますが、こういう作品を取り上げ評価することはキューバ音楽全体にとっても意味あることだと思うのです。
(福田カズノブ ★ 2007/08/21)
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