1990 年代初頭の Los Van Van のヒット作 「 Azucar 」 を紹介します。 この作品には、キューバ音楽界に押し寄せてきた時代の変化がいくつか現れています。
まず、そのひとつは CD 化の波。前作はアナログ盤のみのリリースでしばらく経ってから CD 化されましたが、本作は Los Van Van 初の CD 作品なのです。
また、1980 年代から続いていた各曲に対してのリズム表記がこの作品で最後になっていること。 音楽的にも NG La Banda を筆頭とする新しいムーヴメントが盛り上がり、流れに対抗できなかったり、乗り遅れてしまった 1980 年代を席巻した名バンド、ルンババーナ、ロベルト・ファス、リトモ・オリエンタルなどは失速を余儀なくされるのですが、この作品は Los Van Van が 1990 年代もトップバンドであり続けるための勝負盤だったといえるでしょう。
当時のメンバーは、リーダーのファン・フォルメルを筆頭に、ピアノのプーピ、トロンボーンのフーゴ、フルートのカント、ティンバレスのチャンギート、そしてフロントはペドロ・カルボ、アンヘル・ボンネ、このころは新人だったマジートという布陣。
キューバのバンドは、基本的にピアノ、ベースを機軸に、パーカッション、ホーン・バイオリン・セクション、そしてリード・ボーカルとコロという4層に分かれサウンドを構成していますが、 Los Van Van はそれぞれのセクションにキューバを代表するミュージシャンを擁し、作曲もフォルメルをはじめ、プーピとアンヘル・ボンネが担当するという、まさにスーパー・バンドといったメンバー構成でした。
現 Los Van Van も若返りを図りながら、そのレベルをキープしていることが、トップバンドであり続ける大きな要因といえるでしょう。
楽曲を見ていくと、プーピのペンによるタイトル・ソング 「 Disco Azúcar 」 は、当時のヒット曲。CD を必ずしも購入できなかった当時のキューバ人達にとってラジオから流れてくるヒット曲は重要です。
そしてもうひとつの名曲は 4 曲目の 「 Que Le Den Candela 」。ペドロ・カルボがボーカルをとった傑作曲です。
3、5 曲目はアンヘル・ボンネの佳曲。 そして、8、9 曲目はフォルメルのペンによる曲。 Los Van Van が大衆の支持を受け続けた大きな理由は、ジャズに走らず、分かりやすいメロディ・ラインやシンプルなリズムを基本にしていることなのですが、そのことがよくわかる内容になっています。
個人的には Los Van Van を作品発表と同時に聴いた初めての作品でしたので、思い入れ過剰な部分がありますが、1990 年代以降のサウンドを確立した最重要作のひとつとしてファンにとっては必修の作品といえます。
最近、再発ものがリリースされましたので、比較的お求めやすいアイテムになっています。
(福田カズノブ ★ 2007/10/05)
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