パウロのファースト・アルバム。今から 15 年前にもなるのに今だ輝きを失わない不思議な作品です。
パウロ F.G. こと、Pablo Alfonso Fernández Gallo は、1980 年代末から、ダンデンやアダルベルト・イ・ス・ソンでボーカリストとしてのキャリアを磨き、ホアキン・ベタンコー率いるオプス 13 で、リード・ボーカリストと共に作曲の才能を開花させていきました。 その後、ホアキンが女性名ボーカリスト、ジャクリーンのバック・バンド、バンダ JB に関わっているころ、パウロをリーダーにファン・マヌエル・セルートがディレクトールとなって、オプセ 13 のメンバーを引き連れ新たなバンド、パウロ・イ・ス・エリテをスタートさせるのです。
当時はバンバン、レベ、アダルベルト・イ・ス・ソンといった大御所やダンデン、NG ラ・バンダといった新人バンドが快進撃を続けている時代でした。 そんな中、パウロ・イ・ス・エリテは当時では珍しく若手だけのメンバーでデビューを果たしたのです。
今回取り上げる作品は当初アナログ盤でキューバ国内発売となり、その後 CD 化されたもの。 日本で彼らの音が聴けるようになったのは、村上龍氏招聘の NG ラ・バンダ第 2 回目の来日に前座として演奏したライブとその時の来日記念盤として日本発売になったジャケット違いのこの作品。 私はこの時のパウロ・イ・ス・エリテの生演奏に衝撃を受け、以来ずっとファンのままという状態が続いています。
1980 年代のキューバのカンタンテはペドロ・カルボ、フェリックス・バロイなどマッチョなタイプが主流だったのですが、イサックの登場でソフトな声や歌唱方法が人気を呼び、このパウロで更に甘いボーカルの流れが決定的になります。
サウンドは、オプセ 13 時代とほぼイコール。 パウロのボーカルを前面にキーボード担当のエミリオ・モラレス、サックス担当のファン・マヌエル・セルートがサウンドの中心を担っています。 NG のトスコがラップをはじめ、様々なリズムをキューバ音楽に融合させていた時代らしく、この作品でも色々なリズムに挑戦していますが、特徴はロマンティックなサルサ・バラーダとパウロの甘い声。 彼はイサックを凌ぐほど若いクバーナの人気を集め一躍人気バンドの仲間入りを果たしますが、必ずしも音楽学校出の超エリートではない努力家という一面とバンドをしっかりと運営していくリーダーとしての力量が彼の成功を支えています。
このファースト・アルバムの後、パウロ・イ・ス・エリテはディレクトールのファン・マヌエル・セルートの才能が爆発し、重厚なバンド・サウンドを完成。ティンバ界のトップ・バンドへ登りつめていきます。
この作品はパウロのベストではありませんが、ファンの中ではこれが最も好きだという声が後を立たないのは、もしかしたらパウロの声とメロディ、そしてアレンジが最もマッチしているのはこの時代の作品なのではないかと思うときがあります。 バンドの音は新しいものへ進化し続ける運命を背負っていますが、音楽として良いものは、ある時代の組み合わせでしか生まれ得ないということを示している作品なのではないでしょうか。
(福田カズノブ ★ 2007/11/11)
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