キューバのバンドはライブが凄い、というのは今や定説になっていますが、昨今は CD を遥かに超える生演奏にはなかなか出会えなくなってきました。
それは、キューバのバンドだけが持つ独特なグルーヴを出せるバンドが少なくなっていることに起因しています。 超絶テクニックは始めのうちにこそ驚きはありますが次第に慣れてしまうものなのです。 トップ・バンドになると、海外で受ける為にポップスやジャズを取り入れポピュラー化していく傾向がありますが、 取り入れるほどキューバ独特のグルーヴは失われていきます。
同じフレーズをずっと繰り返していくうちに、なんともいえない心地よさが生まれてくる、そんなサウンドがキューバ音楽の真髄の一つ。 その快楽がぎゅっと詰まっていたのは 2000 年くらいまでだったのです。
キューバ国内でポップスやレゲトンが流行りだしてからそれらは急速に失われてしまいました。 ポップスもレゲトンもキューバで生まれた、キューバの音楽ではないからです。
マイケル・ブランコ率いる Salsa Mayor は、 2000 年以降にデビューした若手バンドですが、キューバ音楽が本来持っている独特なグルーヴを大量に感じることのできる稀有な存在。 今回紹介するライブ CD 盤はその怒涛の音が詰まっています。
ティンバはキューバ人が自らの方法論で解釈したファンクなのだと仮定すれば、その答えはこのライブ盤に顕著に現れています。 それは決してポピュラーにはなりえない、エスニックなもの。 そういうコンセプトを自覚して進んでいればティンバは今日のように衰退せずに、更に進化し濃く深い世界に突入していったことでしょう。
マイケル・ブランコは、ホセ・ルイス・コルテスの再来と言われる若手のホープ。ティンバレスとピアノの奏者で作曲からアレンジまでをこなす腕を持ち、バンド・リーダーとしての人望も持ちえています。 彼の創り出すリズム・セクションとメロディを掌握したサウンドは、レベ、バンバン、プーピなどが持つグルーヴと同じものを既に完成させています。 スタイルがバンバンに似すぎている点を除けば、頼もしい限りの演奏です。
1995 年から 2000 年の間には老舗バンドから様々なバンドが独立し、才能ある若手が数多く登場し、シーンは爆発的に活性化していましたが、 2000 以降はぱったり途絶えてしまい、このマイケル・ブランコやアライン・ダニエルなど数名のみが気を吐いている状態。 いつまでも、バンバン、マノリート、チャランガ、バンボレオでは、未来がありません。
このマイケル・ブランコに課せられている使命はこのバンド・グルーヴを失わずに、新たなスタイルのキューバン・サルサ、ティンバを生み出すことなのです。
(福田カズノブ ★ 2007/11/20)
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