キューバの隠れた名作曲家フアン・ケメル。 そもそもは ユムリバンドのトランペッターとして日本に滞在していたこともあり その頃から既にメロディ・メーカーとしての頭角は表わしていたものの 自身のバンド、バリアーダを率いてからの 活動の方が充実していると言えましょう。
この数年は 穏やかならぬビート重視に移行したと感じさせる作品が続いておりましたが 2007年も残り僅かとなったところで届けられた本作は ケメルの原点回帰を思わせる、なんとも美しい楽曲に満ちた好盤。
キューバ音楽とざっくり申し上げてみましても 人材のマイアミ流出、ヨーロッパ勢のティンバ信者による解釈 はたまた広くラテン・アメリカの中でのミクスチャー現象と 色々に枝分かれし、如何に変貌を遂げるかこそが重要であるかのような昨今 「キューバ人にしか出来ない音楽」 を衒うことなくケメルは示してくれたのです。
私自身 こうした旋律の美しさ、(キューバ人にとってはベーシックな)リズムの豊かさ、 踊りつつもどうにかすると涙がわっと溢れそうな高揚感があるからこそ キューバ音楽に長年とりつかれて来たのです。 つまりは現代キューバ音楽の美点がはからずもこの作品に集結したわけですが 正直こうした作品をケメルがもたらしてしまったことの意味を図りかねます。 世界的に名の轟いたオルケスタはいくらもあるのですから。
キューバ的愛国心、愛音楽心にストレートに基づいたサウンドが 散々あれこれ聴いてきた私の胸を今打ってしまった。 そう、耳を打つよりも胸を打つサウンドというのが良き表現かも知れません。 キューバ音楽の根の深さに酔いしれる思いであります。
(DJ KAZURU ★ 2007/12/30)
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