カナダのレーベルが編んだ「格好良さの極み」的なコンピレイション。 まず1曲目がアルゴ・ヌエボ、つまりは私が何かにつけ推しまくって参りました トロンボニストであり、キューバ音楽の歴史においても 忘れ難いサウンドを作り出して来た、フアン・パブロ・トーレス (当欄の#59,#134に関連作品有)の楽曲でスタート。 一気に独特の世界に引き込まれますが 1970年前後の革新的な音にうっとりする間もなく 畳み掛けるが如く2曲目のイラケレへ突入してしまいます。 しかも「バカラオ・コン・パン」。 現代のキューバ音楽の精神的支柱ともいえる ミクスチャーを体現しつつ、ファンクの精神を全うしている圧倒的な 迫力に満ちた曲です。 この2曲だけでも「買い」であることは明白ですが、次なるロス・バン・バンも 私が最も敬意を払う時代のバン・バンからチョイスされておりますから初めて これらを耳にする方にとっては止まぬ衝撃となるでしょう。
このコンピレイションは、ソンやティンバ、サンテリアという枠で知られる キューバ音楽の歴史からふっと異次元に飛び出した時代のキューバ音楽を 切り取った形とも言えましょう。 なぜ70年代を中心にキューバが 近未来的な音楽的発展を遂げたかを検証すると大変なことになりますので 割愛いたしますが、それでいいのです。クール、ということだけでも これらの音楽の価値は相当高いです。 そして、素晴らしいことに単なる落穂拾い作業ではなくこのカナダのレーベルは 実に吟味して選曲をしたようです。 キューバ音楽に確固たる見識を持ちつつ、レア・グルーヴ感性のある耳で 聴き分けていかれたのでしょう。
Los Reyesといったマニアにも殆ど知られることのない アーティストの音を聴けることは貴重です。 ♯12に収録されているLos5-u-4などフル・アルバムでぜひ聴いてみたいと そそられること間違いなしです。 J.P.トーレスのアルゴ・ヌエボ、スーペル・ソンのCD化を振り返れば ここに収録されている楽曲の数々を フル・アルバムの形で容易く入手出来る日の訪れも夢ではないと思いますが それにしても、レアです。
キューバ音楽は、とかく宗教的な音楽ルーツとサルサに結びつくルーツとして 注目されてしまいがちですが、都会的で黒いグルーヴを湛えた 「なんともカテゴライズし難い音楽」という側面で耳を傾けてみますと その演奏能力に支えられた、実験性、センスの鋭さは卒倒ものだと分かるでしょう。
埋もれてきた音源だけに、正確な録音年も 判然としないものがあるほどです。 キューバ音楽愛好家を自認する方でも、このあたりの音源を集中して 聴いた経験のある方は少ないと思われますが、これだけの名演奏です 見逃してはなりません。
と、ここまで書いてきまして本作品のサブタイトルが The Funky Beats of Revolutionary となっていることに気が付いた次第ですが まさに其の通り。 なぜキューバ音楽は革新的で在り続けるのか、ということの回答のひとつにも なりうる良質のコンピレイションです。
(DJ KAZURU ★ 2008/02/19)
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