「悉皆屋康吉」
舟橋聖一著 拝読。
舟橋氏の小説は
微妙に花柳小説ぽいというか
文学ど真ん中、って
感じじゃないのが
実にツボ。
「お華客」、と
書いて
「おとくい」
と、読ませるあたりの
遊びがたまらんです。
悉皆屋というのは
着物を着る人じゃないと
ピンと来ないかもしれないけれど
染職人や帯の作り手と
お客さんの間に入って
仕立てあがるまでの
あれこれをひきうける
職業です。
現在は、お手入れ全般を
やってくれる人っていう
イメージもあるけど
呉服屋とも違って
独特の立ち位置。
自分は
ただの便利屋ではなく
新しい染の色を考えたりできる
工夫のある芸術家なんだ、と
奮い立たせながらも
どこか
丁稚あがりの「悉皆屋」にすぎぬ、という
へりくだった思いもぬぐえない。
そんな康吉の話ではあるのですが
これは戦時下に書かれた小説。
さりげなく
近いうちに
何か大きな動乱がおこるのではないか
という、一般的な空気は濃厚で
一方ではそれを
待ち構えている風もあり
又、一方では
今のうちに
甘い汁を吸えるだけ吸っておけ
というような
懶惰な思想が瀰漫していた。
そして
誰がこういう雲行きを
巻き起こしているのかという点になると
まったく
曖昧でしかなかった。
などという描写が
はさまれるのには
うわっと思いました。
(DJ KAZURU)
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