宇野千代 著
「おはん」 拝読。
往来堂のD坂文庫の
ラインナップから。
市川崑で映画化したほうを
すでに見ていたのだけれど
吉永小百合と大原麗子の間で
グラングランに揺れて
グッズグズな最低男を演じていた
石坂浩二。
女房棄てて
芸者といっしょになり
ヒモ生活しているくせに
また女房とコソコソ会っては
寝ているという
なんの共感もできない男の話。
挙句の果てに女房を棄てる寸前に
生ました子供が
「お楽しみ中」に水死。
が、
原作をこうして読むと
ダメ男、クズ男なりの
心情というものが
なんともいえない流れるように
やわらかい文章で書かれていて
はーっ、なるほどーっ、と
感じ入るものがありました。
宇野千代さんは
この短い小説を
十年かけて書いたそう。
とことん削ぎ落とされた
純度の高い「独白」文章。
十年!! 上等な男も
上等とは言えない男も
とことん見てきた宇野先生ならではの
仕事という気もする。
人に隠れて
忍び会うてることなぞ
誰知るものもないように
まァそうばっかり願うてました私には
寝耳に水でござります。
へい、おのれひとりの
内証ごとと思うていたそのことが
世上の口にのぼるばかりか
この家にまで聞こえてきたかと思いますと
空恐ろしさにさあッと背筋が寒うなりました。
このままで行きましたら
毎日の新聞にも出てますように
三人の中の誰か一人
川にはまるか、首縊って死ぬかしますより
ほかに手段はござりませぬ。
というて
そのどちらかの女に
「大事ない、何にも言わずに
あてはこのまま退くけに」
と言われましたとしても
「へえ、そうか
そんなら頼むけにそうしてくれ。俺も
心が軽うなるけに」
と言うたり出来ましょうか。
(DJ KAZURU)
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