安野モヨコのイラストも秀逸な
アンソロジー、拝読。
林芙美子の「晩菊」が
凄すぎて参りました。
気になるページを折っていくと
ほぼ全部折ってしまう本が
たまにありますが、「晩菊」がそれ。
戦後すぐの話ですが
女の老いについて
ここまで踏み込んでいる小説は
ないだろうね。
娘だったこともなく
妻だったこともなく
母であったこともない
ただの女が老いるということを
鋭く恐ろしく描写しています。
主人公は56歳になる女性なのだけど
戦中ある学生(30歳近く年の差が・・・)と
男女の関係になっていて
その男は現在は復員して妻帯しているんだけど
数年ぶりに主人公を訪問すると電話がある。
男を迎える準備をする
その描写がすごすぎです。
洋服は
此の時代になるまで一度も着たことはない。
すっきりとした真白い縮緬の襟に
藍大島の絣の袷、帯は
クリーム色の白筋博多。
水色の帯揚げは絶対に胸元にみせない事。
たっぷりとした
胸のふくらみをつくり、腰は細く
地腹は伊達巻で締めるだけ締め
お尻にはうっすりと真綿をしのばせた
腰布団をあてて西洋の女の
粋な着付けを自分で考え出していた。
髪の毛は昔から茶色だったので
色の白い顔には、その髪の毛が
五十を過ぎた女の髪とも思われなかった。
(中略)男に逢う前は、かならず
こうした玄人っぽい地味なつくりかたをして
鏡の前で、冷酒を五勺ほどきゅうとあおる。
そのあとは歯みがきで歯を磨き
酒臭い息を殺しておく事もぬかりはない。
ほんの少量の酒は、どんな化粧品を
つかったよりも効果があった。
(中略)紅だけは上等のダークを濃く塗っておく。
紅いものと云えば唇だけである。
爪を染めるという事も生涯した事がない。
老年になってからの手はなおさら、そうした
化粧はものほしげで
貧弱でおかしいのである。
(中略)香水は甘ったるい匂いを
肩とぽってりとした二の腕にこすりつけておく。
耳朶なんぞへは間違ってもつけるようなことは
しないのである。
女である事を忘れたくないのだ。
世間の老婆の薄汚さになるのならば
死んだほうがましなのである。
(DJ KAZURU)
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