林芙美子短編集。
「貧乏こんちくしょう」拝読。
いずれも昭和20年台の作品かな
初出が載っていなくて分かりませんが。
わたくしはとにかく
「晩菊」が好きで、以前別の選集で
読んで以来の大ファン。
若くはない女の
男に対する目線が本当に鋭く
また、「若くはない女」の装い
がどうあるべきかという持論が
まあ、びっしりと書かれており
ノックアウトされたのでした。
今回同時期の作品を並べて読んで
更にわかったのですが
かつては夢中だった恋愛対象に
すーっと覚めていく瞬間をえがくのも
林芙美子の真骨頂だということです。
こういった心の動きを知っておくことは
若い人にとっても
それは有効なことでしょうね。
以下「牛肉」より抜粋。
···
満喜江はパンを食べるだけ食べると
また煙草に火をつけて
ぱっぱっと口から煙を吐き捨てながら
何とない後悔に似た気持ちを味わっていた。
二度と昔のひとに逢おうなんて愚は
しないことだと思っていた。
紺の背広に白いYシャツ
赤縞のネクタイと云ったあの
服装の佐々木の面影に
惚れていたのかも知れないとも思った。
手入れのゆきとどいた襟足の
青々したところも好きであった。
いま眼の前に見る佐々木は
ブラシもあてない古びた杉あやの背広に
疲れた絹編みのネクタイをしていた。
襟足も馬鹿に汚い。
うっすりと
鼻下にひげをはやしかけている
いるのも油臭い感じだった。
生活の垢がつきかけている男には
満喜江は何の魅力も持たないのだ。
···
この他に数編おさめられた
詩も秀逸!
DJ KAZURU
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