皆川博子 長編推理コレクション3
「知床岬殺人事件」
「相馬野馬追い殺人事件」拝読。
「ノベルス」という体裁の
軽い内容の小説が流行っていた時期に
編集者から
「新幹線に乗っている間の時間潰し的な」
「読み終えたら中身を忘れるような内容で」
「皆川さんが書きたいというものは
書かないで」
「タイトルには殺人事件を入れて」
という、悲しすぎる注文のもとに
皆川博子が書いた作品ですが
そこは矢張り「皆川博子」なので
「殺人が起こり犯人確定」までの
道のりに様々読みどころはあるのでした。
とくに、「相馬野馬追い殺人事件」は
戦時中にエリート軍人として、満州に
いたときの闇の過去に端を発した
恨みがひきがねとなり
40年後に襲うという物語でした。
皆川博子氏は今年90才なので
幼いながら、戦争を肌で知っていた
世代です。
昭和60年頃に発表された
これらの小説は
実際に戦地を体験した人も
読んだのだろうな、と思われます。
軽いトラベルミステリーだと
思って手に取った人には
ドキッとする内容だったと
察せられます。
皆川氏は新装版あとがきに
「美しいデザインの本にしていただき
読み捨て本を書けと言われたときとは
正反対の意味で涙がにじみました
この装画装丁にふさわしい内容の物語を
新たに書きたいとさえ思ったのでした」
と、書いていますが
当時の編集者って
読み手も書き手も随分と
ばかにしてたんだな、と
がっかりします。
得意分野の幻想系とは
まったく違う仕上がりですが
よくぞめげずに、魅力的な物語を
書いてくださいました、と
皆川氏には感謝したいです。
赤江瀑の解説も収録、
「夢の味を知っている人」と。
DJ KAZURU
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