赤江瀑　著
短編集「春喪祭」拝読。

上方歌舞伎の名優、藤十郎の
影のような男を探し求めて
江戸で夜鷹になりながらも追い続ける
女方の執念を描く「夜の藤十郎」。

謎の句を残して失踪した
娘の幻想に飲み込まれる
「春喪祭」。

女学生に文久時代の女性の
心が乗り移ってしまう
「文久三年五月の手紙」。

船の間で見つかった溺死体の謎に迫る
「百幻船」。

どれも秀逸ですが
「宦官の首飾り」がたまらなく
好きです。

紫禁城から追われ
日本でオランダ人の小姓と
なっている宦官の死をめぐる
ミステリーの形をとりながら
むせかえらんばかりの
濃密な性を描いています。

オランダ人と宦官を結びつける
様々な色輝きの宝石が、二人の間で
この世ならざる美しさを
どのように見せたのか
想像の及ばない自分が
悲しいですね。

しかし、それを垣間見た少年の
心がどれほど粟立ったかは
分かるような気がするのです。

そしてもう一人の少年が
宦官に執着する一方で
彼は知らず知らずのうちに
もうひとりの男にある匂いをかぎとって
いたのではないかと
思わせるラストシーン。

···

夏の光と水しぶきのなかでゆれ
きらめきをあげていた光彩玉。

あの華麗な石の連なり。

ふだんは
魚不花の着衣の下に隠れて
眼にすることはできないが、
二人が歓楽の時間をむかえるとき
それは姿をあらわす。

魚不花の首から、オランダ人の
肉体へ移るその美しい石玉の環は、
たえず二人の性戯の中座にあって
その世界を飾っていた。

···

DJ KAZURU