
東京オリンピック2020が決定したとき
「福島の仮設住宅で
ひとりぼっちでテレビ観戦する人が
いたならば、このオリンピックは失敗です」
という趣旨の発言をしたのが
柳美里さんでした。
正論。
と、思いましたがその言葉の後ろには
「JR上野駅公園口」で書いたような
一言では表せない
気持ちがあったのだな、と
読了して分かりました。
上皇と同じ年に生まれ
生涯のほとんどを出稼ぎに費やした
主人公。
若いときは幼い弟妹のため
結婚してからは自分の両親と子供のため。
出稼ぎというのはオリンピック関連の
建設現場での肉体労働も含まれます。
今上天皇と同じ日に生まれた息子に
皇太子にあやかって「浩一」と名付けるも
若くして社会に出る寸前に死亡。
60歳を過ぎてようやく故郷へ戻れば
両親が相次いで死去。
数年後に妻が死去。
単身東京へ出てホームレスとなる。
上野で皇室関係者が美術館などを
訪問する際に、無情にホームレスの
棲みかが撤去される「山狩り」のことを、私は
知りませんでした。
暖をとる場所さえもなくし
死を覚悟していると思われる主人公は
寒い雨のなか立ち尽くし
皇室の車が見えたとき、飛び出して
自分の悲しい人生を彼らに向かって
訴えたい気持ちになるも
なぜか手を振ってしまう。
つらい、つらいシーンです。
自分に親切にしてくれた孫娘は
震災の日に津波にのまれる。
帰るべき場所などない。
オリンピックは再び
東京で開催されようとしている。
全米図書賞の翻訳文学部門を受賞したことで
光の当たった小説ですが、これは
皇室関係者、政府に関わる人
オリンピックを待ち望んでる人、皆が
読む必要のある小説です。
この主人公と対峙したとき
平気でいられるわけがありません。
のんびり上野公園で
海外から来た絵画を眺め美しさに
浸っている間に、誰もが大事なものを
見過ごしてしまった、そして
お前はそのひとりだよ
と、作者に指をさされた
そんな気持ちです。
···
「アメリカ軍による東京大空襲はですね
昭和二十年三月十日の深夜零時八分から
始まりました。
三百機もの大編隊だったそうです。
B-29が超低空飛行をしてですね
焼夷弾千七百トンを人工が密集している
下町に投下しました。
北風の強い夜だったから瞬く間に
炎は津波のように町を襲いました。
最も被害が大きかったのが言問橋で
墨田区両岸の人々は、橋を渡れば
助かるだろうと思ったのです。
子供を抱いたりおぶったりして
走って逃げる人、自転車で逃げる人
リヤカーや荷車に家財や年寄りを
乗せて逃げる人。
そこに浅草側から猛火が押し寄せてですね
人々を焼きながら橋を走って、言問橋上は
足の踏み場もないほどの
焼死体で埋まってしまいました。
両岸の墨田公園に仮土葬された遺体が七千体
上野公園に運ばれた遺体が七千八百体
僅か二時間ほどで
十万人っもの命を奪ったというのに
都内には公立の
東京大空襲·戦災記念館はひとつもなく
広島と長崎にある
平和公園もないのです」
DJ KAZURU
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