日影丈吉短編集
「日影丈吉幻影の城館」拝読。
さすが澁澤龍彦も評価してた
作家、お洒落です。
「オーボエを吹く馬」は
大正時代の子爵家で起こった
奇妙な事件の話ですが、召使いまで
ベッドで寝ている完全な洋館の
描写が、例えばこんなふうです。
「たとえ規模の小ささはあっても
それはまるで
フランスの宮殿をひとつ
この雑木林に囲まれた丘の一部に
そのまま持ってきたように見えました。
建物は正面中央に
入り口のある二階建ての、マンサアル風の
石造建築です。
前庭には立派な花壇があり、その
一隅にはギリシャ建築を模した柱廊つきの
温室もありました。これはきっと
十八世紀にイル·ド·フランスの貴族を
風靡した希臘趣味(パガニズム)の影響
なのでしょう。」
なんと耽美な!
一方
「匂う女」では
箱屋殺しで刑務所出たての
芸者をめぐる殺人ミステリー。
被害者は浄瑠璃の三味線弾きという
設定もさることながら
井戸のそばにたらいをおいて
行水する女の醸し出す
色香の描写も日本情緒そのものです。
現在だと、皆川博子が
江戸風俗もヨーロピアンゴシックも
お手のもの作家として知られていますが
日本にはそもそもこういう
作家がいたのですね。
そういったものに比すれば
現代の日本の文学で描かれるものの多くは
美しくもなければ情緒もない
簡素なものが
なんと増えたことでしょう。
DJ KAZURU
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