「鳳仙花」
中上健次 著、拝読。
学生の時、研究してたので
この本も読んではいたのですが
若いときには読めていなかった部分が
読めるようになっていると感じます。
紀州サーガといわれる血縁の濃さを
描いたシリーズのなかでも
「フサ」の娘時代を描いたこの小説は
一人の少女が女へと移行する
ほんの一瞬の甘やかさを
土地の風土とからめて
豊かに描いています。
「あらくれ」ばかりの兄弟の
中でも、一番年の近い兄への思慕。
その朋輩の青年から受ける好意。
炭鉱で稼ぐと意気込んで
北海道へ渡ったものの、爆死した兄。
特に前半
15才のフサの身におきる出来事が
忌まわしいことであれ
喜ばしいことであれ
きらきらと輝いており
読んでいるこちらがときめきを
押さえられません。
心とからだの変化を
自然に受け止め生きていくフサの
おおらかな逞しさに
感情が揺さぶられます。
16才を目前に大きな腹を抱えて
当たり前のように
井戸端で洗濯するフサ。
妊娠すると体調がよくなる体質で
25才になったときには
5人の子を抱える母となっているフサ。
なのに
自分を愛してくれた夫は病で
あっけなく死んでしまう。
この辺りの描写、言葉はけして
大袈裟ではないのにダイナミック。
タラの土地をバックボーンに
生き抜いたスカーレットオハラのような
逞しさを、運命を受け入れ
「路地」で生きていく
フサに感じます。
紀州サーガのアイコン
夏芙蓉の香りがすべてを包み込み
路地には特別な時間が流れる。
小説って、こうこなくっちゃ
という魅力に満ち満ちた作品。
・・・
子を産みたいと
まだ十五のフサは思い、勝一郎に
今、眼にする番屋も川の波も筏も
フサに子供を産めと優しく言っていると
伝えたかった。
海の方からのぼってきた風が
フサの耳のうしろの方に過ぎ
葉がすっかり落ちた
夏芙蓉の梢を鳴らしていた。
・・・
DJ KAZURU
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