短編集「鎖と罠」収録
「疫病船」
皆川博子 著、拝読。
1976年の短編ですが
現在の疫病騒ぎと同じような
ことが書かれていました。
戦後
中国からの復員船で戻る父を
待つ、母と娘。
しかしその船ではコレラが蔓延。
不衛生な船内で次々に倒れる
者たちを横目にまだ発症してない者は
「上陸さえすれば助かる」
と希望を繋ぎます。
岸が見えたときに迎えてくれたのは
検疫船で、全員罹患疑いだから
患者がいなくなるまで
上陸はならぬと宣告されてしまう。
水も食料もないのに
このままいけば確実に健康な者も
伝染してしまう。
二人の復員兵は
救命ボートに乗り込み脱出を試みますが
港にいた人たちはコレラの感染を恐れて
石を投げて二人の上陸を阻みます。
そのボートに乗っているのは
待ち焦がれた父、夫だと分かった
母と娘も石を投げた。
そのことが30年経っても
娘に重くのしかかり、自分達は
幸福になってはいけないのだと
思いがけない遺産が入った母の首に
手をかける。
小説はさらに娘の弁護士の
妻、母との関係をからめ
さすが皆川博子というストーリーに
なっていますが
疫病描写のくだりはことに
人間の生への渇望、その尊さと
醜さを描いているようで、どうにも
いたたまれない気持ちになるのでした。
・・・
「・・・あの娘だって、
投げたんですよ石を。
私達と一緒になって。
先生、あんたには、
あのときの怖さは
わかりゃしないんですよ。
私たちは、必死で石を投げて
追い払おうとしましたよ。
コレラ菌のかたまりですよ、
救命ボートに乗って
岸に近づいてくるのは
躰の中に疫病菌が
いっぱい巣くってる、手も足も、
服も、体中に、コレラ菌が
びっしりついている」
・・・
DJ KAZURU
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