「天上天下　赤江瀑アラベスクⅠ」
拝読。

赤江瀑作品は出回っている数が
少ないのでありがたい企画。

代表作の「海峡」等が
収められていますが、ちょっとした
エッセイも収録されているのが嬉しいです。

1983年雑誌「マダム」に
歌舞伎の演目ひとつ選んで何か、という
注文を受けて書いたという
「伽羅先代萩」などは、80年代の
奥様雑誌に載っていた内容としては
あまりに濃密。

一演目についてというより
「歌舞伎とはなんぞや」がこの
短い文章にまとまっており
歌舞伎に詳しかった赤江瀑の
文章にうっとり浸れます。

また、この有名演目を知ってる人なら
誰でも共感できる名文といえるでしょう。

・・・

言うまでもなく
誰にもまだその巨大な姿の全容を
見せきってはいないと信じられるこの点が
歌舞伎の底知れぬ強大さであり
蠱惑の源である。

歳古りて、蘚むして
老いさらばえている筈の、ときには
瀕死とさえよばれる巨体が
いまも、折にふれ
垣間見せる絢爛たる光輝の身。

その身で紡ぎ織り出す
芸能の蠱惑の天地。

それは疑いもなく、怪にして
はじめて揮える力の所産であるだろう。

(中略)

その一瞬の光華のうちに
歌舞伎の醍醐味の真骨頂があるのである。

思えば、そうした一瞬の光彩を
どのくらい数多く放ちうる仕掛けを
秘めているかどうかで、歌舞伎狂言の
重量は定まってきた。
時代を経て生き残っている狂言には
これがあるから娯しみなのである。

そこは
演じる側にも、見る側にも
魂の遊ぶ場所である。

こういう場所に、けだし
歌舞伎の妖精たちは
鈴なりに巣くっているのである。

・・・

DJ KAZURU