谷崎潤一郎って明治の末から
昭和初期にかけて、ミステリーを
いっぱい書いているのですね。
「白昼鬼語」
この短編集を読んで
その面白さにびっくりしています。
編者解説にある通り、まるで
乱歩のような感じです。
年代的にも、谷崎が先行で
乱歩のほうが影響を受けているということで
ここは乱歩も認めるところだったと
いうことですが、とにもかくにも
精査された言葉の操り方が上手い。
ミステリー小説というと
トリックありきのものも多い中
言葉の力が強くて美しくて
読んでいて気分がいいのです。
また、「春琴抄」のように
あたかも実際にあったことを
谷崎が筆に起こしている、という
シチュエーションで書かれたものもあり
手練れだなぁ、さすがだなぁ
という印象です。
「女を慕うあまり
人面そうになって彼女の膝に
出現した男(人面祖)」
とか、
「マゾヒストの夫による
サディストの妻殺し
(日本に於けるクリップン事件)」
とか、
「女房と別れたい心情を
台本に綴る劇作家(呪われた戯曲)」
とか、
「女装してかつての
馴染みに会いに行く男(秘密)」
とか、
「盗人である己の心理を
延々説明する若者(私)」
等々
シチュエーションは
色々ですが、そこかしこで
谷崎潤一郎って嫌な男だな!
と思う描写がいっぱいで、けれど
なぜかそこが面白いのです。
女への欲望や、辟易する気持ち
ねじれた情愛、そんなものが
交錯していく様を見事に書いていて
やはり谷崎すごいな、と
結局はそのように思いました。
ここまで
「わけのわからない男のわがまま」を
書ききれる人もいないだろうし、そこは
テクニックなのだと感じます。
私は流れの澱んだ文章は受け付けないし
まとまりのない文章は疲れるだけです。
谷崎の書く男は本当に
まとまりのないところがありますが
そこを文章に落としこんだら
実に明快なのが素晴らしい。
日本人にとって谷崎は、ずっと
「読むに値するから、読んでおけよ」
という位置にいる作家なのでしょう。
DJ KAZURU
Add A Comment