先日本を読んでいてどうにも
目が疲れてしまったことがあり
ふと思い付いて
「NHKラジオ朗読の時間」を
配信で聴いてみたのです。

ちょうど岡本かの子の「老妓抄」
「渾沌未分」「金魚繚乱」の
三本が配信中でした。
朗読は山像かおり。
知らない女優。

今は亡き市原悦子はじめ
紺野美沙子や吉永小百合など
朗読を得意とする女優は多いのですが
この山像かおり氏、レベルが違う。

地の文、登場人物それぞれの
性格が出た口調の使い分けの
みごとさに加え、感情表現が
素晴らしすぎる。

男の憤った台詞も
女の諦めたような言葉も
少女の怒りの表現も
まるで舞台を見ているようでした。

これまで朗読はなるべく
まっすぐに読んだ方がいいと思ってきたのですが
撤回します。

山像氏は
舞台俳優や声優の仕事の他
脚本家でもあるようですが、とにかく
嬉しい出会いでした。

元々岡本かの子が好きで
「老妓抄」は読んでいましたが、
特に胸がざわついたのは「金魚繚乱」の一節で
目の前に桜色の映像が
きらきらと見える瞬間がありました。
以下に引用しておきますが
この文章をここまで豊かに朗読できるなんて！

・・・

ある夕方。春であった。
真佐子の方から手ぶらで珍しく
復一の家の外を散歩しに来ていた。

復一は素早く見付けて、いつもの通り
真佐子を苛めつけた。そして甘い哀愁に
充たされながらいつもの通り

「ちっと女らしくなれ」

を真佐子の背中に向かって吐きかけた。
すると、真佐子は思いがけなく、くるりと
向き直って、再び復一と睨みあった。
少女の泣顔の中から狡そうな笑顔が
無花果の尖のように肉色に笑み破れた。

「女らしくなれってどうすればいいのよ」

復一が、おやと思うとたんに
少女の袂の中から出た拳がぱっと開いて
復一はたちまち桜の花びらの狼藉を満面に
冠った。

少し飛び退って、

「こうすればいいの！」

少女はきくきく笑いながら逃げ去った。

・・・

DJ KAZURU