マキタスポーツ 著
「雌伏三十年」拝読。
山梨から出てきて音楽で
笑いで、何者かになりたいと
足掻く青年のモヤモヤ成長記録。
マキタスポーツは近年
俳優と音楽評論で評価されており
私も彼の批評性は大好き。彼の歌マネ芸は
本当に面白くてこれだけ才能があるのに
なぜ音楽で売れなかったのか不思議なほどです。
ここに書かれているのは
ほぼ実体験なのでしょう。
しかし映画「苦役列車」で役者として
新人賞を取るアラフォーまで
こんなに冴えない人生(失礼!)だったのかと
驚きました。
水商売に踏み込み
ヤクザ紛いの生活と隣り合わせだったり。
バーガーチェーンで
地獄の研修をする羽目になったり。
バンドを組んではもめたり。
女ともめたり。
ライブハウスの雇われ店長になったり。
ラブホテルの清掃員になったり・・・
それはともかく、彼も
彼と同様音楽好きの兄も東京への
執着が強い。というか何もない山梨に
いたくないのです。
彼らの目に写るカルチャーは
すべて東京のもの、だから
お金がなくても東京にしがみつく。
この感じが全編に切々と出ているのですが
私がずーっと東京にいる人なので
なんだか目線の違いに
不気味な感じさえするのです。
地方出身者ならすごく共感するところ
なのかもですが。
物語の終盤、主人公は結婚して
子供もいますが、金は相変わらずない。
そこで実母が死に、実家で葬式をやらなくては
と、なるのですが
「葬式はフェスだ、喪主は主催者だ、
葬儀屋はイベンター、斎場はコンサートホール、
弔問客というオーディエンスを
納得させなくてはならない。」
更に
「葬儀がフェスならアーティストは坊主だ。
アルバイト生活でギャラを捻出できないなら
香典と言う名の善意のチケット代に
頼るしかない」
と気付き、これまで関係があった
レコード会社やなんやかんやに
めいっぱい連絡を取り母の葬式日程を
知らせるのです。
これは、葬儀の場で働いていた私にすれば
「よく気づいたね」と
誉めてあげたいような展開で
一旦斎場を借りて葬式をすると決めたなら
とにかく知人に連絡をしまくるのが
正解なんですよね。
それはともかく、葬儀がフェスに
似ているというのは本当です。
時間内に滞りなく終わらせて
出演者にも客にも納得してもらうのが
大事なのです。
私は葬儀で司会して、そのあと
クラブでイベントするという生活を
数年したことがありますが、本当に
似ているなと思っていました。
異質な場であるという緊張感があり
集った人の感情がはじけやすい、
裏方みんなで成し遂げるチーム力、など
共通点が多いんです。
どちらも好きでしたね。
終わってしまえば、どれだけ人が泣いても
喜んでもさーっと「解散」となり
場が解体されるのが、
フェスと葬儀なんです。
DJ KAZURU
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