「アタラクシア」
金原ひとみ 著、拝読。
毎回思うけどこの著者の文体には
回転数の早いモーターついてるっていうか
ドライヴしていく高まりがある。
なので次へ次へと気持ちも前のめりな
読書体験。
時々一瞬で理解できない
文章の組み方があって
足踏みしてしまうのですが、大部分は
怒濤の勢いで迫る文書で、気持ちいいです。
著者のフランス在住時の
エッセイなど読んでいたので
その頃の体験、感じたことが
反映されてる小説だとすぐわかりました。
主要キャラクターの由依という女性も
著者に重なります。
好きでなくなったから別れたい。
ずっと好きだったから
一緒にいたいのではなくて、今
好きだから一緒にいたい。
別れると一人になるのが怖いの?
由依の発言は常に正論ぽいのですが
正論ぽいゆえに、近しい人間は
とまどってしまう。
やりたいことに進み
好きな人と一緒にいれば幸せ、という
シンプルな生き方を選ぶことは
大多数の人にとって
遠い理想のようになってしまった。
自己肯定感の低い若者は
絶望的な気持ちで未来を見る。
誰に頼まれたわけでもなく
望んで結婚したのに面白くない。
生みたくて
生んだ子供は可愛くない。
夫に不倫されて不幸だ・・・
不満をもつキャラクターはそれぞれに
心情を吐露します。
興味深かったのは
由依の恋人が経営するレストランで
パティシエをしている女性。
彼女には子供がいるが、幼少期から
粗暴な男の子で、ついに
8歳でホームレスに石を投げつけ警察沙汰に。
反省の様子もない息子に絶望し
もう向き合えないと思うわけですが
結局どうなるのかは未解決のまま。
男と違って
子供はまさか捨てるわけにもいかないし。
こういう人はどういう選択をするのか
と、考えてしまいました。
しかも彼女の夫は不倫三昧で
その日常を面白おかしく
twitterで多くもないフォロワーに向けて
書いています。
彼女は偶然夫のアカウントを知って
過去2年分のtwitterを辿るのですが
これもネット以前にはなかった
自傷行為と言えるかもですね。
ほぼ読んでる人がいないとしても
全世界に向けて書かれた
妻である自分の悪口、また
不倫相手といかに睦みあったか、を
読んでいるってどんな気持ちでしょう。
自分も相手を好きになり
相手にも請われて結婚したはずなのに
どうしてあっという間に
地獄が訪れるのか。
金原ひとみはこの辺も
上手く書いていますよ。
DJ KAZURU
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